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medium(メディウム) 相沢沙呼

副題は「霊媒探偵 城塚翡翠」。語り手である推理小説作家がワトソン役となって、霊媒探偵を名乗る少女が難事件を解決していく連作短編集。表紙がかなりライトノベルっぽいが、内容は本格ミステリーといっても良い濃厚な謎解きミステリーだ。大仕掛けのどんでん返し、それに伴ういくつもの小さなどんでん返しの数々が読者を魅了する。大仕掛の方は途中でおおよその予測はできてしまったが、ここまでのどんでん返しとはびっくりだった。続編が可能かどうか微妙なところだが、続編の余地を十分に残すという誘惑に負けず本編本位の意外な結末に徹した著者に脱帽だ。(「medium メディウム」 相沢沙呼、講談社)
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続定年バカ 勢古浩爾

世に溢れる「定年本」を痛快にぶった斬ってくれて、他の定年本を読む必要がなくなったと思わせてくれた前作の続編。著者が前書きで書いているように、前作刊行後に世の中からくだらない定年本が駆逐されたかと言えばそうでもなく、ひどい内容の定年本がまだまだ続々と刊行されているらしい。前作では、お金に焦るバカ、健康バカ、生きがいバカ、社交バカ、未練バカ、終活バカが切り捨てられたが、本作では、人生100年バカ、すぐ死ぬんだからバカ、老後あと2000万円必要バカ、おひとりさま勘違いバカ、あんたはいいよバカ、自分がそうだからバカ、死ぬまで言ってろバカが徹底的に槍玉にあがる。なかでも前作同様「自分がそうだからバカ」への批判は辛辣で痛快の一言。(「続定年バカ」 勢古浩爾、SB新書)
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展望塔のラプンツェル 宇佐美まこと

今年の色々な賞を総なめにしている話題作。話は、児童虐待に対処する行政職員、家庭内暴力で居場所のない若者、不妊治療に苦しむ主婦という3つの話が並行して描かれていくが、日本社会の暗い部分がこれでもかこれでもかと描かれていて読んでいて息苦しくなるほどだ。この3つの話がどう結びつくのかが読み手の関心事だが、最終的には「そういうことでしたか」と納得の結末。微かな希望を残す結末は小説ならではのものだろう。(「展望塔のラプンツェル」 宇佐美まこと、光文社)
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へろへろ 鹿子裕文

著者とその仲間たちが、色々苦労しながらグループホーム、特養ホームを立ち上げて運営していく様を明るく記録したノンフィクション。ここで語られているグループホームや特養ホーム、印刷物などはその世界では結構有名なもののようなのだが、自分は全く知らなかった。それでも何か事を為す時に最初に必要なものが知識や資金ではなく熱意と行動だということを教えてくれて、読み応えがあった。(「へろへろ」 鹿子裕文、ちくま文庫)
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ムゲンのi(上下) 知念実希人

これまでに読んできた作者の作品と同じく病院を舞台にして繰り広げられる長編ミステリーだが、医学的な要素はほとんどなく、しかも記述の大半が主人公の夢の中というかなり異色の一冊だ。原因不明で眠り続けるという世界中で数百例しかないという難病の患者が日本の特定の場所で立て続けに4人も罹患するという不可解な事件が発生。それをひとりの若い主人公の女医が解明しようと奮闘する。常識的にこの不可解な出来事の現実的な解決策はこれしかないと思って読み進める。結果的にはほぼ予想通りになるのだが、最後に見えてくる景色はかなり意外なものだ。作者の新境地と言っても良いような力作だが、やはりこの作家にはテンポの良い短編集を期待したい。(「ムゲンのi(上下)」 知念実希人、双葉社)
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枕元の本棚 津村記久子

大好きな作家の書評集。作者の勧める本が何十冊も紹介されているが、そのうちで読んだことがあったのは1冊だけだったというのも少し意外だったが、それ以上に驚いたのが、どれもこれも非常に面白そうですぐにでも買って読んでみたいと思ったことだ。そうなってしまう可能性としては、①著者が沢山本を読んでいてその中から面白い本を厳選してくれている、②それほど沢山本を読んでいるわけではないが著者に面白い本を読む前に察知する能力が備わっている、③著者が紹介するとどんな本も面白く思えてしまう、この3つくらいが考えられる。普通ならば①なのだろうと思うところだが、紹介される本がどれもこれも面白そうなので、もしかしたら③なのではないかと思ったりした。紹介された本をすぐに全部読むことは時間的に無理だが、少しずつでも読んでいきたいと強く思った。
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ルポトランプ王国 金成隆一

そろそろ来年のアメリカ大統領選に向けた情勢がニュースを賑わせるようになってきた昨今。3年前を思い起こすと、世界中がトランプ大統領の誕生に驚いたり嘆いたりしつつも、今回のトランプ候補の勝利はアメリカ中間層の現状に対する不満や民主党クリントン候補の自滅という特殊要因が招いた奇妙な結果という雰囲気で、何となく再選はあり得ないと考えていたように思う。ところが最近の報道では、トランプ人気の根強さとか対抗馬不在でトランプ再選の可能性が語られるようになっている。こうした状況で、3年前の出来事の本質を確認しようと思って本書を読んでみた。本書は、前回大統領選の予備選の時期にトランプ支持に回ったいわゆるラストベルトの有権者の声を詳細に伝える内容。要約すれば、「昔のアメリカは普通の人が普通に働けば中流階級の暮らし、そこそこの暮らしができて夏休み休暇の旅行を楽しんだり野球観戦できる暮らしができた」「NAFTAやTPPなどの自由貿易政策がアメリカの製造業を破壊した」「そうした自由貿易を推進したのがワシントンのエスタブリッシュたちだ」という主張であり、「製造業を守る」「自由貿易を見直す」と主張するワシントンと無縁のトランプに期待するという主張だ。製造業の崩壊は、自由貿易というグローバル化のせいだけではなく、テクノロジーの発展という要素も大きいので、自由貿易を見直すだけでは解決しないだろう。もっと重要なことは、テクノロジーの進歩に対応した教育を行うことで、それがなければ苦境に立った中流階級の困難は解消しないはずだ。そのことを考えると、同じ課題は日本にもあるはずだし、トランプ再選もありうる話だと思えてきた。(「ルポトランプ王国」  金成隆一、岩波新書)
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展覧会 坂田一男 捲土重来

東京駅で少し時間があったので立ち寄った展覧会。日本を代表するキュビズムの画家とのこと。膨大な数の作品が展示されていてまずその量に圧倒された。作品の題名を見るとほとんどがただ単純にコンポジション、デッサン、エスキースなどとなっていて、作品も徹頭徹尾キュビズム的なものばかり。どんな画家も時代と共に色々作風が変わったりするのが普通だと思うが、そうしたブレがこの作家にはほとんどないかのようで、それに驚かされた。途中で、明らかに器を描いたと分かる静物画が一枚あってこういう具象画もあるのかと思ったら、モランディの作品。モランディの絵が見られた嬉しさもさることながら、大量の坂田一男の絵にひっそりとモランディの絵を忍ばせたような展示の巧みさが楽しかった。
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落語 SWAリターンズ

創作話芸アソシエーションSWA、約8年振りの復活公演。この1年古典落語・上方落語・浪曲・講談など色々な日本の話芸を聞いてきたが、だんだん飽きてきてしまい、最後まで飽きずにいるのが、落語家による創作落語というジャンルだ。その中心的存在の4人によるSWAの復活ということで期待を持って聞きに行ってきた。昔からのファンが多いのか、会場は超満員。それぞれの話芸を堪能した。
◯8月下旬 柳家喬太郎
◯心を込めて 春風亭昇太
◯泣いたチビ玉 林家彦いち
◯奥山病院綺譚 三遊亭白鳥
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民宿雪国 樋口毅宏

大昔に買って読む機会がないままになっていた一冊。ある人物の一代記で、その人物の周りに色々な実際の事件や人物が登場。読みようによってはかなりはちゃめちゃな内容だが、色々な事柄を作家のイマジネーションで再構築して見せてくれていて、何となくこういうのを小説というんだなぁと感心しながら読み終えた。この作家、本作後にどんな作品を書いているのか、こういう作家がノンフィクションを書いたらどうなるのかな、などと色々考えてしまった。(「民宿雪国」 樋口毅宏、祥伝社)
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落語 瀧川鯉八独演会

新作落語の旗手鯉八の独演会。300席余りの会場は超満員で圧倒的に女性が多い。内容は、開口一番、浪曲ひとつ、本人の新作落語3席。最初に彼の落語を聞いた時に感じた古典と現代の融合のようなものを今回も感じた。
①たらちね 金かん
②ならやま 鯉八
③陸奥間違い 玉川太福、みね子
④おちよさん 鯉八
⑤苦イズ 鯉八
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20歳のときに知っておきたかったこと ティナシーリグ

スタンフォード大学の人気集中講義の講義録。野心的な学生のために成功する秘訣を伝授するという内容、それが人気を集めているということ自体が如何にもアメリカ的だ。書いてあることは、失敗に学べとか前向きにとか、かなり陳腐だが、色々な具体的エピソードを交えての話には説得力がある。類似の本は世の中に沢山あると思うが、アメリカを知るという意味では絶好の一冊だと思う。(「20歳のときに知っておきたかったこと」 ティナシーリグ、阪急コミュニケーションズ)
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モンスター部下 石川弘子

ほぼ全編がモンスター化した部下に関する事例の紹介で、なるほどこういうケースもあるのかと驚かされる内容。その大半はまるでテレビドラマを見ているようだ。本書を読んで一番参考になるのは、真っ当な上司からの注意に対するモンスター部下の反論の仕方が色々紹介されていること。なかなかそれに対する反論は難しいし、反論しない方が良い場合も多いだろうが、そういう反論がありうることを前もって知っているのと知らないのとでは大きな違いがあるはず。それがわかっただけでも読む価値のある一冊だと思う。(「モンスター部下」 石川弘子、日本経済新聞社)
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橋を渡る 吉田修一

週刊文春に連載され、その当時から物議を醸した小説とのこと。読んでみてまず驚いたのは、連載当時にちょうど週刊誌を賑わせたであろう時事ネタが小説の随所に散りばめられていること。都議会でのセクハラ発言の犯人探し、i-PS細胞を巡る騒動、セウォル号沈没事件などが、ストーリーの遠景だったり中心的な役割を果たしたりと様々な形で登場する。週刊文春の読者は、実際の文春の記事と同時並行的にこの小説を読むことでかなり奇妙な体験をしたに違いない。さらにびっくりするのは、本書の第4部の展開。想像を絶するシチュエーションだが、今現在の現実を延長したところにあるべき近未来というのはこういうものなんだろうかと誰もが考え込んでしまう。作者独特の静かな語り口が恐怖を倍加させる一冊だ。(「橋を渡る」 吉田修一、文春文庫)
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