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2017年ベスト10

今年読んだ本は225冊。過去最高だった昨年の218冊を上回った。但し、体調不良の時期もあったりであまりまとまった読書ができず、読みたい本がどんどん溜まってしまい、満足のいく1年ではなかった気がする。また今年は、気に入った作家の作品やシリーズ作品の比重が例年よりも大きかった。そのため、ベストテンの作品もそうした作家の作品から印象に残った一冊を選ぶという感じになってしまった。新しい作家を見つけるとその作品を続けて読むことは別に悪いことではないが、その度合いが過ぎて良い作品に偶然出会う機会が少なくなった気がする。そんななかでの恒例の今年のベストテンは以下の通り。

①「重力波は歌う」ジャンナ・レヴィン:読みたいと思った時に刊行されたというタイミングの良さと内容の面白さが今年のピカイチ。

②「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ」 川上和人:文章の面白さに脱帽。著者の本があまり刊行されていないのが恨めしい。

③「浮遊霊ブラジル」津村記久子:今年最も沢山読んだ作家の一人。どれも面白かったが、多分この作品は著者の新境地と言って良いのではないか。

④「ヒトラーの描いた薔薇」ハーラン・エリソン:永らく海外のSF作品を敬遠しがちだったが、本書は久々に面白かった。

⑤「謎のアジア納豆」 高野秀行:アジア出張が楽しみになった。

⑥「かくしごと」住野よる:刊行される作品が常にベストセラーになる作家だが、本当に心に残る作品ばかり。

⑦「がん消滅の謎」岩木一麻:今年一番の衝撃的なミステリーだった。

⑧「プレゼント」若竹七海:この作家の本も今年沢山読んだが、どれも面白かった。

⑨「血縁」長岡弘樹:この作家については、新作の刊行が待ち遠しいが、粗製乱造はして欲しくないというのが読者の勝手な願い。

⑩「流されるのにもほどがある」北大路公子:「流行に疎い」ということを逆手に取った「流行通信」。笑える一冊。

 

2010年132,2011年189,2012年209,

2013年198,2014年205,2015年177,

2016年218,2017年225


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ホワイトラビット 伊坂幸太郎

著者の作品は、結局必ずいつかは読むことになるので、何時買っても同じなのだが、本書に関しては、各方面で「決定版」という感じのコメントが多く聞かれたので、大急ぎで購入して読むことにした。偶然と必然が交錯しながら、話は思いも寄らない方向へと向かっていくのだが、それを交通整理のように時間の前後と語り手を教えてくれる地の文が絶妙に面白い。最後の最後に全てが丸く収まってしまうように見えるのは見事だが、作者自身が「完全に丸く収まったか自信がない」と言っているように、読者も本当に全て丸く収まったのかは余程厳密に読み込まないと分からないし、そこで粗探しをしても面白さが増す訳でもない。それが著者の作品の良さでもある気がする。(「ホワイトラビット」 伊坂幸太郎、新潮社)

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天久鷹央の推理カルテ4 知念実希夫

シリーズ4作目。コンセプトはこれまでの3作品と全く同じ。天才的な診断医の主人公とその相棒が、医療にまつわる不思議な事件を解決していくライトノベル調の医療ミステリーだ。3作目のゴタゴタも一応ケリがついたようで、読者としてはその後の2人の関係性の変化が気になるところだが、そこは次回作以降のお楽しみらしい。ここまでこのシリーズを読んできて、このシリーズはあらゆる点でテレビドラマ向き、もっと言えば主人公のモノローグ付きのドラマそのもののような気がしてきた。(「天久鷹央の推理カルテ4」 知念実希夫、新潮文庫)

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イノセントデイズ 早見和真

久し振りに重厚な作品を読んだ気がする。死刑判決を受けたある女性の半生を、簡潔な死刑判決文の表現を題名にした章立てで、真実あるいは他の人から見たものがどうであったかが一つずつ明らかにされていく。判決文にせよ人の思いにせよ、それらがいかに表層的なものになりうるかを読者は思い知らされる。最後まで何とかならないものかとハラハラしてきた読者は、最後の最後に主人公自身が見せるある行動に完全に突き放される。イヤミスという言葉では括れない心に残る傑作だ。(「イノセントデイズ」 早見和真、新潮文庫)

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君たちはどう生きるか 羽賀翔一

80年前の教育的な児童文学の漫画化作品。宮崎駿の映画の題名になるとの情報もあるらしくベストセラーになっている1冊。原書となる作品については、題名を聞いたことはあったが読んだことはなかった。戦前に刊行され戦後もしばらく読まれたというから、今の団塊世代より少し前の世代の本なのかもしれない。そして、そうした「聞いたことはあるが読んだことはない」というくらいの距離感の私のような人が本書を求めるのかもしれない。内容は、ちょうど社会性に目覚めるくらいの年齢の少年が、その叔父さんの間の往復ノートを通じて社会とは何かを少しずつ学んでいくというストーリー。原書の内容にどの位忠実なのかどの位の分量が使われているのかは分からないが、どんなに歳をとっても、忘れてはいけない生きていく上での原点のようなものを再認識させてくれた気がする。(「君たちはどう生きるか」 羽賀翔一、マガジンハウス)

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時限病棟 知念実希人

最近立て続けに読んでいる著者の「病棟」シリーズ。問題を起こして廃院になったある病院を舞台に「リアル脱出ゲーム」が繰り広げられるサスペンス調の医療ミステリーだ。最初のうちは、登場人物たちがかなり特殊な状況を簡単に受け入れてしまうことに違和感を覚えたが、読み進めていくうちに、だんだん物語に引き込まれてしまった。登場人物の大半が医療関係者で、彼らならではという反応がストーリー展開の随所に見えていてそれが面白いし、医療知識を使ったある仕掛けが読者を驚かせる結末もこの著者の醍醐味だろう。最近この著者の本の売り上げがすごくて一種のブームになっているらしいが、よく判る気がする。(「時限病棟」 知念実希人、実業之日本社文庫)

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普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話 佐藤治彦

年齢的に老人という範疇に括られようとしているにも関わらず、これからのお金の心配をあまりしたことがないのだが、周りの人を見ると、私以上にお金持ちなのに、とても心配だという人がいる。何か自分には見落としていることがあるのではないかと思って、本書を読んでみた。結果的には、大きな見落としはなく、本書で語られている「あまり老後のお金の心配をしない」「ちょこちょこ無駄使いはしない」といったあたりは、自分の心情とも合致していて、少し安心することができた気がする。それに加えて、これからの世代、自分の子ども世代に読ませたい話も多く、軽く読めながら、幾つも参考になる点のある良書だと感じた。(「普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話」 佐藤治彦、扶桑社新書)

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物流大崩壊 角井亮一

日本の強みの1つが「宅配便」だという話はよく耳にする。スキーをするために日本を訪れた外国人観光客が最初に驚くのが、スキー場にスキーを運んでくれる「スキー宅配便」の便利さだという。その日本の強みである物流システムに関して、ドライバー不足、過重労働といった問題が取りざたされるようになっている。その実態を詳しく知りたいと思っていたら、グッドタイミングで本書を見つけた。内容は、その期待通り、現在の日本の物流という社会インフラの現状や抱える諸問題を図解と数字で分かりやすく教えてくれる解説書だった。しかも、最近の動きとして、ラストワンマイルを大手宅配業者に丸投げする状况に変化が起こっているというところで出てくる「オムニチャネル」「ウーバーEATS」などの説明は大変ためになった。特に先日自分の住む地域で始まった「ウーバーEATS」のビジネスモデルを教えてくれる図表とその説明は、色々な疑問を解消してくれて、とても良く理解できた。読んだ後、少し賢くなったような気がした。(「真実の名古屋論」  角井亮一、宝島社新書)

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美少年椅子 西尾維新

シリーズの第7作目になるが、前の作品がどんな話だったのか正直あまり覚えていないのだが、読んでいるとなんとなくこれまでの話や登場人物たちのことが見えてくるのは、このシリーズがキャラクターが現実的でなければいけないという縛りを超えてかなり極端に設定されているからだろう。読んでいて楽しく、読み終わったらすぐに忘れてしまえるというのは、ある意味読者には有難いことだ。言い換えれば、読んでいる時の充実感という記憶だけで次の作品を読ませる作品、これがライトノベルの真骨頂なのかもしれない。内容もこんな話だったっけと思うくらい脇道に逸れている感があるのだが、こちらも著者の作品だからという理由で気にならないのが不思議だ。(「美少年椅子」 西尾維新、講談社文庫)

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世界一「考えさせられる」入試問題 ジョン・ファーンドン

出張先の本屋さんでたまたま見つけた1冊。オックスブリッジの入試問題とそれについての著者のコメントが収められている。「昔の煙突はなぜ高かったのか」「海はなぜ塩辛いのか?」「自分の頭の重さの量り方」といった知識に基づいた思考の過程を問う問題もあれば、「建築によって犯罪を減らすには」「なぜ世界政府は実現しないのか」「カタツムリには意識はあるか」などかなりひねりのきいた問題もある。中には「あなたはクールか」「幸せとはどういうことか」といった禅問答のようなものや、「リンゴをどう説明するか」「あなたにとって悪い本とは」などどうやって採点するのか判らないような問題もある。私自身が最も面白かったのは「ハムレットは長すぎると思わないか」という問題。シェークスピアのハムレットは、完全に上演すると4時間かかる、彼の作品のなかでも例外的に長い作品ということらしい。もとより正解などない世界なのかもしれないが、採点者が考える良い回答と悪い回答、あるいは採点基準のようなものが判れば面白いのになぁと思ってしまった。(「世界一「考えさせられる」入試問題」 ジョン・ファーンドン、河出文庫)

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ワーカーズ・ダイジェスト 津村記久子

もう著者の本は7,8冊目になるが、1冊読むたびに著者の新しい側面を発見するような感覚があってとても嬉しい。ジャンルとしてはお仕事小説とか私小説といったかなり狭い範囲の作品ばかりなのだが、何故か読むたびに新しいものに触れているような感覚にとらわれる。本書は、暗闇の中を手探りで進むようなやるせない初期の作品と、暗いトンネルを突き抜けたような最近のユーモラスな作品のちょうど中間に位置する作品のような気がする。ウィキペディアで作品の書かれた時期を調べてみると、作者が芥川賞を受賞した2年後に発表された作品とのことでで、ちょうどそのあたりが転換点になっているのかもしれないと勝手に想像してしまった。(「ワーカーズ・ダイジェスト」 津村記久子、集英社文庫)

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天久鷹央の推理カルテ3 知念実希人

シリーズ3冊目の本書。このシリーズは2015年9月に第一巻が刊行されてから現在までの約3年間に長編3冊と短編5冊で第8作までが刊行されている。著者はこの間に本シリーズ以外の作品も数多く出しているので、かなりのハイペースであることは間違いない。巻末の「初出」を見ると、掲載された短編のうち他の媒体に既出の作品は1つだけで、それ以外の短編は「書下ろし」となっている。ちなみにこれまでに読んだ第2作目の巻末を調べてみたらこちらも同じような感じだった。要は、作品が1つ発表されるとそれに書下ろしを加えて文庫本にするといううサイクルで刊行されていることになる。素人なのでよくは判らないが、こうしたことは作者と編集者の間に強い信頼関係がないとできないことのような気がする。現在、既刊のシリーズ作品を全部読もうと思っているが、刊行がハイペースなので読む方も頑張らなくてはいけない。これだけハイペースでも、本書についてはミステリーとしての面白さは全く健在だった。これはかなりすごいことだと思う。強いて言えば、ミステリーの謎が、やや専門知識に偏りすぎていて素人にピンとこないものがあったり、かなり常識的過ぎて意外性が弱かったりという短編もあるにはあるのだが、連作集としての平均的な水準の高さはやはりすごいなぁと思う。(「天久鷹央の推理カルテ3」 知念実希人、新潮文庫)

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宗教国家アメリカの不思議な論理 森本あんり

著者の「反知性主義」という題名の面白そうな本を見つけたので購入しようと思ったら、同じような内容でもっと初歩的な感じの新書が出ていることを知り、その新書である本書から読むことにした。本書は、アメリカという国家を社会学的に論じた解説書だが、刊行されたばかりだけあって、多くの部分がトランプ政権誕生の背後にあるアメリカ社会の深層心理や思考的傾向を語ってくれている。著者の主要な論点は「富と成功」「反知性主義」という2つのキーワードだ。本書は、この2つのキーワードを元にトランプ政権誕生がアメリカの歴史の中で特段異常な事態ではないことを解き明かしてくれる。ここで語られている考察は、これから日本がトランプ大統領のアメリカとどう向き合っていくべきかを示唆しているし、日本にも同じようなポピュリズムの波が押し寄せていることへの警告にも聞こえる。色々な意味で示唆に富む一冊だった。(「宗教国家アメリカの不思議な論理」 森本あんり、NHK出版)

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おすすめ文庫王国2018 本の雑誌社

毎年年末に発売になる書評誌。スケジュール帳に発行日を書いておくほど、1年の楽しみにしている本だ。文庫本に限られてしまうが、1年間に刊行された文庫の総合ベストテン・分野別ベストテンを紹介してくれるので、毎年たくさんの新しい本との出会いがあるのが嬉しい。年間総合ベスト10は座談会形式で紹介されていて、出席者それぞれが勝手にお勧め本を披露するので、ほとんど読んだことのない本ばかりが並ぶ。今年のベストテンを見ると既読の作品は1冊だけだった。また、分野別ベストテンも同様に選者の好みが強く反映されていて、今年もほとんど既読の本はなかった。それはそれで色々な新しい本を見つけるチャンスになるので良いのだが、自分の読む本の傾向が何だか人気に流されて読む本を選んでしまっているようで反省しなければいけないなぁと強く思わされる。(「おすすめ文庫王国2018」 本の雑誌社)

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遺言。 養老孟司

最寄駅の商店街に本屋さんがオープンして1か月。売り上げに貢献したいと思うのだが、単行本は申し訳程度に20冊くらいしか置いていないし、文庫と新書も本当に小さな棚が2つだけなので、なかなか買う本が見つからずに苦慮している。そうしたなかで見つけたのが本書だ。1冊だけしか置いてなくて、しかもカバーに大きなシミがいくつもついていて、普段なら絶対に買わないのだが、売り上げに協力しなければと目をつむって購入した。題名の「遺言」とは全く関係ない話題に終始している。著者によれば、80歳になって思うこと伝え残したことを、家族旅行の空いた時間を利用して執筆したものとのこと。内容は、感覚的に捉えられる様々な事象を「同じもの」として括るということの意味を考察したもののようなのだが、思考の痕跡である記述が飛んでしまっていてその論理展開にほとんどついていけない。著者によれば「久しぶりに口述筆記でない本を書いた」とのことで、やや語弊があるかもしれないが、筆記者や編集者の有り難さが良く分かる一冊だ。(「遺言。」  養老孟司、新潮新書)

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