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2016年のベスト10

今年の読書は 218冊でこれまでで最高だった(2007年180冊、2008年136冊、2009年129冊、2010年132冊、2011年189冊、2012年209冊、2013年198冊、2014年205冊、2015年177冊)。但し、内容的には、体調を崩して全く読めない時期があったし、軽い本の割合が増えてきているので、例年に比べて充実していた感じはない。その一方で、読んだ本の題名を振り返ってみると、結構、自分にとって良い本との出会いがあったように思う。たくさん本を読むというのは、内容の充実に必ずしも結びつかないし、じっくり味わう醍醐味を忘れてしまうという弊害も大きい気がするが、少なくとも良い本に出会うチャンスを高めるという効果はあると思う。また例によって、今年一年で良かった本、印象深かった本を16冊(10冊に絞れませんでした)。 

①また同じ夢を見ていた・よるのばけもの(住野よる):作者の本は3冊しか読んでいないが、読んでいて他の作家とは違う何かを持っていると強く感じる。

②ランクA病院の愉悦(海堂尊):作者の作品にマンネリ感を感じていたが、それを吹き飛ばしてくれた作品集。

③ロボット・イン・ザ・ガーデン(デボラ・インストール):ハードSFとは対極にあるようなほのぼのとしたSF小説。やっぱり自分にはソフトなSFの方が肌に合うと思った。

④捕食者なき世界(ウイリアム・ソウルゼンバーク):科学の解説書だが、色々なことを考えさせられた。

⑤ミステリー・アリーナ(深水黎一郎):全作品を制覇しようと思い、今年最もたくさん作品を読んだ作家(多分)。そのなかで、最新かつ最も面白かった一冊。

⑥ミッドナイト・ジャーナル(本城雅人):非常に緻密な駆け引きや交錯した人間関係を堪能した。

⑦日本人(橘玲):かなり捻くれた日本人論だが、言葉の1つ1つが的を射ているように思った。

⑧さよならシリアルキラー(バリー・ライガ):シリーズ第3作目の完結編は購入後、何となく読むのが惜しい気がして後回しにしていたらしたまま未読で年を越してしまった。完結編のお楽しみは来年に。

⑨ミャンマーもつれた時の輪(的場博之):今年もアジア関連の本を何冊か読んだが、そのなかで一番印象に残った1冊。文章よりも掲載された写真の方が圧倒的に記憶に残る。

⑩STAP細胞はなぜつぶされたのか(渋谷一郎) ねつ造の科学者(須田桃子) あの日(小保方晴子):STAP細胞事件を追いかける新聞記者、その記者の報道によって深く傷ついた小保方さん、そうした加熱した報道と渦中の当事者のバトルを中立かつ冷静にみつめるジャーナリスト。この3つを今年読んだ。中立の本に書かれた内容に対する、バトルを繰り広げた両者からの反論を期待したい。

⑪スペース金融道(宮内悠介):奇想天外な設定と正統SFの融合がたまらなく面白かった。

 

次は新書。今年は面白い新書が多かった。とくに印象に残っているのがこの3冊。

①ゴジラとエヴァンゲリオン(長山靖生):日本のサブカルチャーについて深く考えさせられた一冊。

②京都ぎらい(井上章一):大ベストセラー。面白かったことは言うまでもないが、とにかく色々考えさせられた。

③知の進化論(野口悠紀夫):ITの今を我々世代の言葉で語ってくれて、目を開かせてくれた。

 

続いて、かなり昔の作品だが、とても面白かったのが次の2冊。

①リプレイ(ケン・グリムウッド):最近のSFは、難解すぎてついていけないと思うことも多いが、たまに本書のように自分のツボにはまる作品に出会うことがある。

②こぐこぐ自転車(伊藤礼): なかなか入手できず、買えた時はうれしかった。趣味を持つことの楽しさを感じて、何かしたいなぁと思った。

 

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知の進化論 野口悠紀雄

歳を取ってくると最近のIT関連の進歩についていくのはかなり難しい。それで曲りなりにも使えるようになれば良いが、その基本すら理解できず、セキュリティ面の怖さだけが頭に入ってきて、結局自分から遠ざけてしまうことも多い。遠ざかっているとその間にさらに進歩してしまってますます理解するのが難しくなる。そうした悪循環を和らげてくれるのが本書だ。自分よりも一回り年齢が上の著者が、現在のそうした進歩の歴史からみえる本質を丁寧に解説してくれるので、なんとなくこれまで遠ざけれてきたものにもう一度関わってみようかと思うことができる。また、昔一斉を風靡したソフトなども歴史的な文脈の中に登場し、それを使った時の興奮が蘇る記述もあって、あの時の興奮をもう一度という気分にしてくれる。色々な意味で中高年に勇気を与えてくれる一冊だ。(「知の進化論」 野口悠紀雄、朝日新書)

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いまさら翼といわれても 米澤穂信

最近ノリにのっている著者の最新刊。古典部シリーズの第6作目。著者の魅力と才能を満喫できる短編集だ。これまでの5作は文庫で読んできたので、単行本で読むのはこれが初めて。何事にも消極的な高校生の主人公による日常の小さな謎解きというコンセプトはこれまで通りなのだが、正直に言うと、これまでの5作品、こんなに面白かったかなぁと思うほど、本作は面白かった。主人公を始めとする登場人物たちのキャラクターとかは変わっていないはずだが、読者に伝わる面白さが、単にこれまでの6作の中で最も面白かったという表現とは違うもののように感じられた。この感覚の違いが、著者の作風の変化によるものなのか、読み手側の「作者の作品ならば面白いはず」といった心構えの違いが反映されたものなのかはよくわからない。例えば、「何事にも消極的」という主人公のキャラクターが、本作では話の内容に大きく関わっていて、そういう事かと納得させられる場面がしばしばあり、うまいなぁというよりも深いなぁと感心してしまった。そんな感想を第6作目で初めて感じた。傲慢な上からの発言で大変申し訳ないが、やっぱり物語というものも時間と共に成長していくんだなぁとつくづく思った。(「いまさら翼といわれても」 米澤穂信、角川書店)

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偉人リンカーンは奴隷好き 高山正之

雑誌に連載されているエッセイをまとめたいつもの1冊だが、世間一般の「やや進歩派」を良しとする意見を徹底的に疑う姿勢が面白いのでずっと文庫本になった時に読んできた。文庫化されてから読むので、時事テーマなどは読む段階でかなり古いテーマになってしまっているのが少し残念だが、当たり障りのない常識的な報道とのかい離が大きくても、時間が経過していることで、こちらとしてもかえって冷静に読めるような気がするし、その方が良いのかもしれないと思ったりする。但し、このシリーズを読んでいていつも思うのだが、本書のような進歩的な論調に対して意図的に懐疑的で、かつ過激なほど攻撃的な文章を読んでいると、こうした意見が文章として消費されていくことが果たして日本社会のためになるのだろうかという疑問が湧いてくる。ある意味それは言論の自由に裏打ちされた大切なことだし、社会には反対意見があることを知るという意味でももちろん重要なことなのだが、本書の場合、攻撃的な文章であればあるほど、それ自体が様々な問題に対する疑問や不満のガス抜きに利用されてしまっているのではないかと心配になるのだ。(「偉人リンカーンは奴隷好き」 高山正之、新潮文庫)

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月と太陽の盤 宮内悠介

作者の本はこれで4冊目になるが、一作ごとに内容が全く違うのでびっくりさせられる。一作目は抒情的なSF、二作目はかなりハードなSF、三作目はユーモアSF、そして4冊目の本書はミステリー色の強い一般小説だ。著者はまだそれほど多くの作品を描いているわけではないのだが、一作ごとに評判になっている気鋭の作家だ。読んだ4冊とも著者の才能が迸り出る様な作品ばかりだが、そのジャンルに固執せずに新しい試みを続けているようで、もしかすると自分のスタイルとかジャンルを模索しているのかもしれない。それをずっと同時的に追いかけている自分が何となく幸せだなぁと思う。個人的には、三作目と一作目が好きなので、そのどちらかに注力して貰いたいと思うが、果たしてどうなっていくのか。新作をこれからも追いかけていきたい。(「月と太陽の盤」 宮内悠介、光文社)

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喫茶店タレーランの事件簿5 岡崎琢磨

シリーズ第5作目の本書。今回は、語り手の主人公の過去から現在にまつわる物語が取り上げられている。私自身は、これまで彼がどういった人物として描かれていたかあまり覚えていないので残念だが、シリーズのファンにとってはキャラクターの重要な部分を知ることのできる内容で、嬉しい一冊なのだろうと思う。ミステリーとしては、もう一人の主人公が小さな謎を解き明かしながら、大きなストーリーが展開していくといういつもの流れだが、それぞれの謎にも一工夫があって面白く、次を読みたいと思いつつ読み終えることができた。「喫茶店タレーランの事件簿5」 岡崎琢磨、宝島社文庫)

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本バスめぐりん。 大崎梢

著者の本は、本屋さんとか出版社など本に関するお仕事小説が多いので、面白そうな本があれば手に取るという感じで、結構読んでいる気がする。本書も「移動図書館」が舞台ということで、何となく著者おなじみの世界だなと思いながら読み始めた。主人公は定年退職した男性で、彼が再就職したのが市立の移動図書館の運転手兼司書の助手という設定。移動図書館を楽しみにしている地域住民との交流やちょっとした謎解きが単純に面白い。高級住宅地の住民が「移動図書館」を楽しみにしているという場面があって、それが少し腑に落ちない気もしたが、自分の引退後の生活を考えると、案外図書館に入り浸っていたり、図書館で何かのお手伝いをしていたりということも可能性としてはかなり高いんじゃないかとも思えてきた。まあ、どんな仕事にも色々とトラブルはあるんだなぁと思いながら読み終えた。(「本バスめぐりん。」 大崎梢、東京創元社)

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これからの誕生日 穂高明

読み終えて、本当に良い本だと思った。大きな事故で友達を亡くし、一人だけ生き残った少女について、弟、友達の母親、伯母、新聞記者、近くのケーキ屋の主人という周りの人たちの視点で語られる。生き残ったことへの罪悪感に苦しむ彼女に対して、それぞれの心のなかには、悪意もあればやっかみもあるが、著者は悪意を糾弾もしないし、敵視もしない。その姿勢が心を打つ。特に最後のケーキ屋の主人の章には、心底心を打たれた。東日本大震災の直後に刊行されたという本書は、著者の意図に関わらず、震災について心の整理をしなければならない人、一人一人にとっての名著だと思う。(「これからの誕生日」 穂高明、双葉社)

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よるのばけもの 住野よる

著者の本はこれで3冊目だが、どれも本当にすごい作品だと思う。処女作も第2作目の作品も、じわじわと売れていてロングセラーになっているようだが、最新刊の本作もそれらに勝るとも劣らず心を打つ傑作だ。今回の作品のテーマは「いじめ」問題だが、「大人が介入しても事態は好転しない」「とにかく今を乗り切れ」といった一見まっとうにみえる大人の対応などは完全に遠景になってしまっていて、当事者と当事者の心のつながりとすれ違いが克明に描かれる。処女作同様かなりドキッとする題名だが、著者の知名度も上がっているので、今回はすんなり買うことができた。一人のファンとして、主だった国内の文学賞を総なめにする日も近いのではといった期待を抱くほどすごい作家だと改めて感じた。(「よるのばけもの」 住野よる、双葉社)

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いとみち~三の糸 越谷オサム

津軽三味線を奏でる女子高生の奮闘を描いた本シリーズの第3作目。前作が2年前くらいに文庫化されて、それ以来なのでブランクはちょうど2年くらいだと思うが、本シリーズは何といっても設定が面白いし、主人公のキャラクターも新鮮なので、それほどブランクを感じないで読める気がする。しかも本書の冒頭に、前作で本シリーズの舞台である町から引っ越していった人物が「皆どうしているかなぁ」という内容の手紙が掲載されていて、それが前作までの話の復習の役割を果たしている。ちょっとした工夫だが、読者にやさしい有難い趣向だと感心してしまった。一応本作でこのシリーは完結ということのようだが、成長した主人公の姿とか、二代目の話でも良いので、是非とも続きを読みたいと思う。まあこれだけ面白いので、読者の声に押されて続編刊行という確率は低くないと思うが。(「いとみち~三の糸」 越谷オサム、新潮文庫)

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ブッポウソウは忘れない 鳥飼否宇

何となくネットを検索していたらヒットした作品。作者の名前も作品の題名も知らなかったが、鳥に関するミステリーで作者名が「鳥飼」といのが何となく面白かったので、読んでみることにした。内容は、鳥類の生態を研究する研究所で起こる小さな事件を普通の成年である主人公が解決していく、いわゆるコージーミステリー、鳥類の不思議な生態や、大学の研究所という特殊な世界を色々「へぇそうなんだ」と思いながら、楽しく読める一冊だ。いずれの短編も「すわ大事件か?!」と思わせながら、大事に至らずによかったと安心できる。軽いと言えば軽いが、重苦しい社会派の小説ばかりでは疲れるし、そうかといってライトノベルもちょっとという時に、こうした本は気軽に読めて少しうれしい気がする。(「ブッポウソウは忘れない」 鳥飼否宇、ポプラ社)

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掟上今日子の旅行記

次から次へと刊行されるシリーズの最新刊。本屋さんで見落とさないようにするだけでも結構大変だ。しかもこのシリーズについては、毎巻色々なちょっとした工夫がされていて「今度はそう来たか」という部分を楽しむこともできる。そのあたりのアイデアに関しては、作者のアイデアが無尽蔵なのか優秀なブレーンがいるのか判らないが、読者をひきつける点において測り知れないものを感じる。本書もまさに「今度はそう来たか」という感じの1冊。内容は軽いし、色々論理的に詰めていけば綻びもいくつかありそうだが、もともと無理な設定というか不思議な設定の話であることを考えれば、そうした詮索が野暮であることは間違いない。そのあたりのさじ加減が絶妙と言えば絶妙だ。(「掟上今日子の旅行記」 西尾維新、講談社)

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雪の断章 佐々木丸美

著者の本は2冊目だと思うが、書評誌で「これこそ作者の代表作」と紹介されており、ネットで購入して読むことにした。本の帯を見ると「徹夜必至」とある。読んでみると確かに本を置くことができなくなった。朝の通勤電車の中で読み始めたのだが、その日の夜、どこで読むのをやめて寝るか、なかなかやめられずに困った。翌日の仕事に差し支えるので徹夜はしなかったが、次の日が休日だったらおそらく読み終わるまで寝られなかったかもしれない。この本が途中でやめられないのは、ハラハラするストーリーとか先の見えない展開が読者を惹きつけるからではない。主人公の視点からの描写は、むしろ静かで展開も緩やかなのだが、その主人公の行く末が心配でやめることができないのだ。文章の力に脱帽する作家というのは、それほどはいないのだが、この著者はそうした数少ない作家の1人だと思う。解説を読んでこの作品が4部作の最初の作品だと知った。あと3作も続くということは、うれしい気がする一方、この作品の良さを損なってしまわないかという心配も頭をよぎる。それほど特別感のある作品だった。(「雪の断章」 佐々木丸美、創元推理文庫)

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静かな炎天 若竹七海

最近、著者の本がTVで紹介されて、ちょっとしたブームになっているらしい。著者の本は何冊か読んでいるが、どの本が既読でどの本が未読か瞬時に判断できない。長いキャリアの作家の場合、時々そういうことがある。どれも面白かったという記憶はあるのだが、ある時期にまとめて読んだり、シリーズで追いかけたりしたことがなかったせいだ。そういう時に有難いのが新刊だ。ここ数年の話ならばまだ記憶に残っているので、安心して購入できる。本書は、書評で作者の新しい作品集として紹介されていた一冊だ。著者の密度の濃い文章は健在、短い短編ながら読みごたえのある作品が並んでいる。特に二つ目の表題作は、最近読んだミステリーの中でも最も印象に残る傑作だと思う。探偵である主人公の元に次々と舞い込む小さな仕事の依頼。それらを卒なく解決していく主人公。この作品は主人公の日常を描いた作品なのかと思ったら、終盤で主人公がある人物に発する一言で、事態はガラリと一変する。ちょっとしたアイデアかもしれないが、意外性は抜群である。著者の本はまだ何冊も読めるので、これからが楽しみだ。(「静かな炎天」 若竹七海、文春文庫)

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中国の論理 岡本隆司

最近の中国の反日感情に関する出来事をジャーナリスティックに紹介したり解説したり予測したりという本はそれこそ数えきれないほど刊行されているが、正統的な歴史学者による「歴史から説き起こす日中関係」というスタンスのアカデミックな本はあまりないような気がする。本書を本屋さんで見かけた時、題名は何となく固いが、目次を読んで、もしかしたら本書は、ジャーナリステックでないアプローチの日中関係の解説が学べるのではないかと感じて、読んでみることにした。内容としては、思った程最近の話題に直結する内容ではなかったが、それでも本書で語られる「中国の二元的社会」「華夷思想」「イデオロギーに従属する歴史」といったフレーズには、日本人が中国との関係や中国人の行動を理解するのに大切な視点があるように感じた。(「中国の論理」  岡本隆司、中公新書)

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