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ライオンは仔猫に夢中 東山篤哉

シリーズ3作目。第2作目を読んでから何年もたっているはずはないのだが、登場するキャラクターについては良く覚えているのに、何故かどんな話だったのか全く記憶にない。著者の作品は色々なシリーズがあるが、事件の内容や質はシリーズによってあまり違いがない。それで、シリーズ毎の特徴は、事件の質ではなくキャラクターによって認識している面がある。読んでいても、キャラクターが強烈過ぎて、そればかりに注意がいってしまっている気がするのも確かだ。読み物としてそれが良いことかどうかは微妙だが、少なくともミステリーとしては、論理展開ばかりが目立つものよりも自分の好みには合っている気がする。(「ライオンは仔猫に夢中」 東山篤哉、祥伝社)

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教場ゼロ 長岡弘樹

本書では、有望な若手刑事の養成の場として「風間道場」と呼ばれる制度が設けられたという設定で、短編ごとに登場する若手刑事が変わっていく。読書に本当に細切れの時間しか取れないような時に最適な1冊だ。各短編の内容は、ちょっとした犯人の行動の綻びから真相が抉り出されるという短編ミステリーの王道のような内容で、どれも少しひねりが効いていて読者を楽しませてくれるし、最後の短編のラスト衝撃的だ。本書はちょうど著者の本が読みたいなぁと思っていたらタイミングよく刊行されていた。読者心理を心得た編集の人がいるのだろうかなどと思ってしまった。(「教場ゼロ」 長岡弘樹、小学館)

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観光コースでないミャンマー 宇田有三

ミャンマーに行く途中、成田空港内の本屋さんで購入して、ミャンマー滞在中に読んだ一冊。ミャンマーに行くのは7回目だが、観光や市内散策などを殆どしたことがないので、未だによくわからないことが多い。本書は、ジャーナリストの視点でミャンマーの歴史、風土、国民性などを色々な角度から教えてくれる。お米屋さんの店先で、お米の値段だけではなく、どの様な銘柄が買われているか、値段が何語で書かれているかまでを伝える姿勢は正にジャーナリストとしての本領で、それが読み手には有り難い。本書では、ミャンマーの8つの地域の情報が掲載されている。自分にはヤンゴンやマンダレー以外の地域に行く可能性は殆どないが、それらの記述がミャンマーをよく知るために有効であることを実感する。それが「観光コースでない」という題名の真意だろう。(「観光コースでないミャンマー」 宇田有三、高文研)

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鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ 川上和人

読んでいて、これほどわくわくして面白かった本は久し振りなような気がする。東京都にしか生息しない固有種の鳥がいるとか、南硫黄島のビックリするような自然だとか、著者が新種発見を取り逃がしてしまったいきさつなど、どれをとっても面白い話ばかりで、しかもためになる話が満載だ。ユーモアに富んだ色々な比喩も絶妙で、読み飛ばすのがもったいなくて、一行一行がおろそかにできないという気にさせられた。動物愛護の団体の人がが読んだら、眉をひそめるような記述もしれっと書かれているので、目くじらを立てる気にもならないだろう。著者の一般向けの本がもう1冊あるようなのでそれも楽しみだ。(「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ」 川上和人、新潮社)

海外出張のため1週間ほど更新を休みます。

 

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ゲームの王国(上・下) 小川哲

あるSF書評家が絶賛していた1冊。実はその書評家の薦めるSF本は、これまでに何冊も読んだが、自分の感性と合わないことが多かった。自分の感性と合う書評と合わない書評があるのは事実で、こればかりはどうしようもないが、この本については、その書評家の絶賛振りが只事ではないので、読んでみることにした。上下巻のうちの上巻は、ポルポトの時代のカンボジアを舞台にした主人公の若者3人を巡る話で、SF的な要素はほとんどない。このままずっとこの調子なのかと思ったら、上巻の最後の方で、とんでもない大惨事が起こり、いったいこの後どうなるのかというところで下巻へ。下巻では、上巻の最後から一気に時代が飛んで、21世紀のカンボジアが描かれ、現代を超えた未来の話になっていく。「この作品をもって伊藤計劃後が終わった」という言葉が帯に書かれているが、本書を読んでいると確かに伊藤計劃の作品が思い起こされ、只ならない雰囲気が感じられる。実際この作品を読んで、本書が自分に感性と合致するのは、SFでない部分が上巻で懇切丁寧に描かれているからではないかと感じた。SFで描かれた世界をあまり書き込み過ぎるのは興醒めだが、最近のSFは、世界観を読者が行間から読み取ってほしいというスタンスに終始したり、読者のイメージに任せたりということが多すぎる気がする。本書は、著者のデビュー第2作目とのこと。当然第1作も読みたいし、これから書かれる作品にも大いに注目したいと思った。(「ゲームの王国(上・下)  小川哲、早川書房)

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京都の壁 養老孟司

最近流行りの「京都本」。二番煎じのようなこのテーマを著者がどの様に語るのか興味があったが、読んでみるとかなり普通の内容だったのでむしろ驚いた。京都の特徴とされる閉鎖性や態度の曖昧さなどは、日本人の特性そのものだというくだりに著者の独自性は感じられない。テーマによっては独自性を発揮できないものもあるのだろう。ただ、都市における城壁と心の壁を対比させたところはなるほどと思ったし、また、コンピューターの二進法と遺伝情報を伝える4つの塩基の話も著者ならではの感じで面白かった。こうした部分が少しあるだけで読んで良かったと思うことができるのが著者の本の良いところだろう。(「京都の壁」 養老孟司、PHP研究所)

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AX 伊坂幸太郎

帯にシリーズ3作目の連作ミステリーとあるが、初めから長編として書かれたことは間違いない。最初から最後まで言葉の軽妙さと表現の確かさが際立つ作品だ。最後の仕掛けは、途中で何となくわかってしまったが、かなり際どい内容をここまでハートウォーミングなものにしてしまうのは著者ならではだと思う。幾らでも読んでいたいと思うが、本シリーズもこれが最後だとすると少し寂しい。(「AX」 伊坂幸太郎、KADOKAWA)

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間取りと妄想 大竹昭子

新刊書の書評が出た時から読みたいと思っていたのだが、ネット書店でしばらく「在庫なし」と表示されていた本書。突然「在庫あり」に変わったので、この機を逃してはいけないと思い購入した。奥付けを見ると第四刷とあり、結構静かなブームになっていることを想起させる。本書は短編集だが、それぞれの短編の最初に一つの間取り図が提示され、その後にその間取り図を舞台にした短いお話が続いている。話の内容は、深くその間取り図に関わるものだったりそうでなかったり様々だ。読み始めてすぐに本書の題名の意味が理解できたような気がした。おそらくこれらの短編は、作者が間取り図を見てそこから立ち昇ってくるイメージを記したものなのだろう。世の中に「間取りマニア」という言葉があるかどうかは知らないが、もしあるとしたら、彼らはこうした妄想で楽しんでいるのかもしれない。それをストレートに書いて、しかも多くの読者に読ませるというのは、かなり凄いことだと思う。(「間取りと妄想」  大竹昭子、亜紀書房)

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あいにくの雨で 麻耶雄嵩

独特の個性を持った著者の作品。本書も、陰惨な連続殺人事件と探偵役の高校生たちの生徒会の権力闘争という全く異次元の2つの話が並行して語られるという何とも不思議な構成が目を引く。正直言って「生徒会」の話の方はあまり面白い話ではないが、よく考えると、かなり現実離れしているという点で2つの世界はつながっているのかもしれない。現実味とか社会性とかを重視しない「本格派」ならではの1冊といえるだろう。(「あいにくの雨で」 麻耶雄嵩、集英社文庫)

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ダチョウは軽車両に該当します 似鳥鶏

シリーズ2作目。動物園で小さな事件が起こりそれが大きな犯罪の一部であることが判明していくという流れや、特に超人的な探偵が登場しないことなどは前作と同じ。シリーズ物の良さは、ある程度そうしたパターンがわかっているので、安心して楽しめることだろう。本書では、登場人物のうちの五人は悪い人ではないという前提で読めるし、小さな事件の背後にあるのはどんな犯罪なんだろうと想像しながら、楽しく読み終えた。(「ダチョウは軽車両に該当します」 似鳥鶏、文春文庫)

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探偵ファミリーズ 天称涼

裏表紙の解説や表紙のデザインから、かなり変則的な内容だろうなぁと覚悟して読んだのだが、意外とオーソドックスなミステリーだった。話のシチュエ-ションはかなり奇抜であまり現実味がないし、論理展開も無理なこじつけが多いという印象を受けるが、ストーリーは現代社会の「家族というもののあり方」を様々な事件に絡めて考えさせるような内容になっているし、最後の短編のトリックとどんでん返しにはかなりびっくりさせられた。読み手としては、家族の在り方とか最後のトリックとか、諸々のことについて頭の柔軟性を試されているような気もする。無理な論理展開も柔軟性を持って読まなくてはいけないのかもしれない。全くの娯楽作品のようで、少し勉強にもなった一冊だ。(「探偵ファミリーズ」 天称涼、実業之日本社文庫)

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虹色の空 久郷ポンナレット

仕事の関係で東南アジアの国々の情報を多角的に集めようと色々検索していて見つけた1冊。カンボジアのポルポト政権時の悲劇については、死者の数とか人口に対する割合といった統計的な知識、当時のカンボジアが直面していた国際政治情勢などの情報では理解できない部分がある。それは、カンボジアのキリングフィールドの記念館に収められた無数の犠牲者の頭蓋骨を見ても明らかにできない何かだ。それらは全て「マス」として抽象化されてしまったもののようにも思える。また、人間はどのようにして全体主義に走るのか、人間はどこまで残虐になれるのかといった政治哲学的な考察も、最終的な何かにはたどり着いていないような気がする。そうしたどこまで行っても不十分だと感じてしまう何かに光明をなげかけてくれるのが、本書のような個々人の体験を読むことだと思う。そこには普遍的ではないが、自分だったらこの時どうしただろうという問いかけを通じて、その何かに近づける気がする。またもう一つ本書を読んで気がついたのは、ポルポト時代の加害者の多くがその後も殆どが普通に生活しているという事実だ。(「虹色の空」 久郷ポンナレット、春秋社)

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マスカレードナイト 東野圭吾

マスカレード・シリーズの第3作目。読み始めてすぐに事件の核心が提示され、あとはテンポ良くどんどん話が進んでいく。次から次へといわくのありそうな人物が登場し、この中に犯人がいるのかどうか色々考えながら読んでいるうちにあっという間に読み終えてしまった。話の合間にホテルで働く人たちの技や矜持といったものがストーリー展開に花を添えるのが本シリーズの特徴でもある。ミステリーとしては、あまりひねりがなくてストレートすぎるかなぁという感じだし、謎の部分もそれなりに答えが見えてしまう部分も多いが、読書中のスピード感は何物にも代えがたい本シリーズの魅力だ。(「マスカレードナイト」  東野圭吾、集英社)

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歯科女探偵 七尾与史

歯科医と歯科技工士の女性コンビが活躍するお仕事ミステリー。お仕事ミステリーといっても、起こる事件は連続殺人などかなりハードだ。三つの短編が収録されていて、患者さんに起こった事件、クリニックで起きた殺人事件、探偵役の歯科医の父親に関する事件と、それぞれ趣向が凝っていて面白い。歯科医の中に基礎研究を専門にする科学者もいれば警察の事件捜査に協力する法歯科学者もいるということは、少し考えれば当たり前のことだが、本書を読むまで考えたこともなかった。探偵役二人の推理は必ずしも歯科の知識とは関係ないものが多いが、解説に本書の作者の本職が歯科医と紹介されていてちょっとビックリした。(「歯科女探偵」 七尾与史、実業之日本社文庫)

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完全犯罪 小林泰三

本格派ミステリーを突き詰めていくとこういう荒唐無稽な話まで行くつくという典型のような短編集。SFの一ジャンルとも言うべきタイムトラベルの矛盾を本格派ミステリー的に解釈するととんでもないことになるというのが表題作。その他の作品も、ジャンルに拘らずに、本格派ミステリー派作家の論理構築力を色々な角度から楽しめる。本書を読んでようやくこの作家の本質に触れることができた気がした。(「完全犯罪」 小林泰三、創元推理文庫)

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