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万能鑑定士Qの事件簿Ⅷ 松岡圭祐

シリーズ8作目。主人公の鑑定能力の進化は止まるところを知らない。ここまでくると、読者の興味を惹き付け続けるには、前よりもすごい能力の発揮がなければ、ファンとしてなかなか納得できないということになるのだろう。ただ、本シリーズでうまいなぁと思うのは、一直線に凄みを増していくのではなく、時々本作のように主人公が鑑定士として活躍を始める前の過去にまつわる人々を物語に関わらせて、そのあたりのスピードをうまく調整していることだ。本作の場合、トリック自体はやや平凡だが、主人公の過去を知る人々が関わると、主人公の能力の切れ味が何故か鈍ってしまうようで、それによって、主人公への思い入れを強める効果と進化のスピードをゆっくりさせてシリーズを直線的にしない効果の2つを実現させているように思われる。(「万能鑑定士Qの事件簿Ⅷ」 松岡圭祐、角川文庫)

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六とん2 蘇部健一

かなり昔に読んだ記憶のある「バカミス」の名著「六枚のとんかつ」の続編ということで読んだのだが「こんなにまともだっただろうか?」と首を傾げてしまうほど、普通の短編集なので、拍子抜けしてしまった。最初の短編あたりは「バカミス」元祖の面目を保っている感じの馬鹿らしさだが、他の大半の話はこれといった特徴もなく、中にはオチすらも見当たらない話が並んでいる。1つ1つの話は結構面白いのだが‥。解説を読むと、作者自身まだ試行錯誤の段階にあると書いてあるが、読者が「六とん」という題名の本に望むのは馬鹿らしさ以外には考えられない。「結構面白い」本は世の中に結構あるが、「あまりにも馬鹿らしい」本というのは他では期待できないのだから、ここは一つ、作者としても意を決してとことん馬鹿らしさを追求してもらいたいものだ。(「六とん2」 蘇部健一、講談社文庫)

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国語力アップ400問 NHK放送文化研究所

表のページに漢字・慣用句・諺等に関する問題、裏のページにその答えという、手頃な問題集。答えの1つ1つに「正解率」が掲載されていて、それが結構面白い。「難しいな」と思った問題の正解率が意外に高かったり、何でもないと思った問題が難問だったりということだが、どちらかというと前者の方が多かった。日本人の日本語力というのは意外と高いのだということが判ったような気がした。1つ難を言えば、400問しかないのに、同じ漢字の問題があったことだ。たった1つのことだが、校正などの段階で見過ごされたとしたら、チェックの甘さは否めないだろう。、(「国語力アップ400問」 NHK放送文化研究所、NHK出版)

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儚い羊たちの祝宴 米澤穂信

著者の本は5,6冊読んでいるが、いずれも学園ものミステリーだったような気がする。本書も登場人物は概して若いが、これまでの本とは少し違い、非常に重たい感じの、やや耽美主義的な雰囲気を漂わせた作品だった。そうした雰囲気を出すために、謎めいたサークルが登場したり、気負ったような文体たっだりで、それはそれで悪くはないのだが、こうした話は、すでに数限りなく書かれていて、今になって新たに書く意味というのは何なのだろうかと思ったりしてしまう。召使とか執事とか旧家のお嬢様とかばかりが出てくるし、動機も浮世離れしていて、しかも思い切り暗い話は、あまりにも少女趣味だし、そうした雰囲気の代償として失われてしまっているリアリティを補うだけの何かが足りないように感じた。(「儚い羊たちの祝宴」 米澤穂信、新潮文庫)

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サダム・フセインは偉かった 高山正之

昨年読んだ「アウンサンスーチーは‥」の前作にあたる本著。少し見方を変えるだけで、過去の歴史や現在の政治・社会情勢の見え方がこうも違って見えるのかということに気づかされる。嫌いな国やマスコミ、官僚などへの批判は徹底的に辛らつだが、いちいち思い当たるところもあって、説得力がある。ただ、嫌いなものに関しては、記憶力抜群で、かなり過去の行状まで指摘して「今もそうであるに違いない」とする一方、擁護するものへの指摘は、あまり過去に囚われない柔軟性を持って語られているのが、少しバランスが悪いように思われる。要するに、両者とも時間と共に変化しているはずなのに、嫌いなものに対してはどんなに時間が経過していても許さないという姿勢がややアンフェアかなと感じられる。(「サダム・フセインは偉かった」 高山正之、新潮文庫)

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相続はおそろしい 平林亮子

様々な「相続」の場面をドラマ風に事例で紹介している本書。事例を読み進めていくうちに、相続の知識が自然と身につくという啓発本だ。仕事柄、多少は知識があるものの、やはり実際にその立場になったらいろいろ慌てるだろうなという心配が常にあって、何となく読んでみた。基本的な入門書なので、新しい知識を得るというよりも、確認のために読んだという側面は強いが、それでも何箇所かアンダーラインなどを引きたくなるところがあったし、最初の「相続と介護」などは、法律の教科書には絶対出てこないようなトラブル事例で、非常に参考になった。巻末に「日ごろの心がけ」が箇条書きになっているのも良い。題名の「おそろしい」が漢字ではなくひらがなになっているのは、正しい知識があれば「それほど怖くない」という著者の気持ちの表れのような気がする。「遺産は少ないほど揉める」とか「怖いのは相続税ではなく遺産分割のトラブル」という刺激的なキャッチフレーズが使われているが、実際は読む人に優しく、いろいろな配慮のできた良い本だと感じた。(「相続はおそろしい」 平林亮子、幻冬舎新書)

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東南アジア四次元日記 宮田珠己

著者はエンタメ・ノンフの世界では第一人者ともいえる有名人だが、著書を読むのは初めて。薄い文庫本だが、50枚のカラー写真と28枚の白黒写真が掲載されており、とにかくそれをパラパラと見るだけで、めちゃくちゃに面白い。ちなみに私の家族にその口絵だけを見せたが、笑い転げていた。写真だけで面白い上に、写真にまつわる旅の冒険談が笑えるし、写真と関係のないところの文章も同じくらい笑える。本書の舞台はベトナム、ミャンマーの2か国が中心で、私の場合、仕事でベトナムやミャンマーに出張するようになり、少しは見聞したはずなのだが、私が持っている旅行ガイドブックには本書で取り上げられているような観光スポットのことは全く書かれていない。本書を読むと、著者が本書で取り上げたようなものがそこかしこにあるような錯覚に陥るが、本当のところはどうなのだろう? 特殊な場所に行かなければ見られないものなのか、それとも私自身近くを通りながら見えていないだけなのか、何だかとても不思議である。ミャンマーで、仏僧の人形の行列を発見し、「このまま人形を作り続けて国境を越えていく」のを想像したり、「こんなものを一生懸命作り続けるよりも送電線の1本でも作った方が良いのではないか」というあたりの感覚、そう言いながらそうしない人々を慈しんでいる著者の感覚が、大変好ましく感じる。カウントダウン前後に読んだ今年最初の1冊だが、今年のエンタメノンフ、ベスト1級の快著だった。(「東南アジア四次元日記」 宮田珠己、幻冬舎文庫)

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