『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想191  石狩川

2016-02-10 17:38:20 | 小説(日本)

読書感想191  石狩川

著者      本庄陸男

生没年     1905年~1939年

出身地     北海道石狩郡当別村で生まれ、北見に転居。

父親      佐賀県鍋島藩出身の士族

出版年     1938年から1939年にかけて同人誌「槐」に連載され、

        1939年に 刊行される。

再出版年    2011年

再出版社    (株)新日本出版社

賞歴      1938年下半期の第8回芥川賞の予選候補。

売り上げ    戦前のベストセラー

☆☆感想☆☆☆

本書は岩出山伊達家の北海道の当別に開拓地を開くまでの苦難を小説にしたものである。出てくる人物も実在の人物を模した名前が付けられている。藩主の伊達邦直は作中では邦夷、家老の吾妻謙は阿賀妻謙と名前が少し変えられている。戊辰戦争の結果、岩出山の伊達家は亘理の伊達家と同じく所領を没収され、禄高1万4640石が65石の扶持米に減額された。多くの家臣は帰農を迫られた。亘理の伊達家が転封してくる南部藩の支配下に置かれるのに対し、岩出山の伊達家は伊達本藩領内に留まった。そうしたことから、亘理の伊達家は君臣一体となって有珠への入植を果たしたのに対し、岩出山の伊達家中は二つに割れた。北海道の自然の厳しさと3年分の自活の費用などが必要とされることから、明治4年3月に出発した第1次の入植者は43戸160人。入植地は石狩川河口の聚富(しっぷ)。最初に入植地として認可された土地は、石狩川上流の空知だったが、石狩川の氾濫によって大湖と化していた。2回目に認められたのが、石狩に近い海の幸も得やすいという海岸沿いの砂地の聚富だった。しかし、収穫はみじめな結果に終わり、農業に適した新たな土地を探さねばならなかった。

本書はここから始まる。阿賀妻謙は、松浦武四郎踏査の地図で調べた三方が山に囲まれ、南に広く開けたトウベツという平原の踏査に向かう。道なき道を歩き、山を越えて石狩川の枝川が幾重にも流れ、樹木が鬱蒼と茂るトウベツの平原にたどり着く。そして開拓資金を得るために、開拓使石狩出張所保税倉庫建築請負入札に応じて落札し、開拓団の男たちは今までしたことのない大工仕事に従事し、千円の利益をあげる。今後も現金収入を得るために建築の技術を習得しなければならないと熱心に働く彼らと、生活を脅かされると思った本職の職人たちとの諍いが起きる。しかし刀を抜かない。阿賀妻謙はよくぞ我慢したと褒め、われらは勝ったと告げる。資金を得てから男たちは総出で石狩から当別まで山を越え鬱蒼とした原野を切り開いて道を作りあげる。

ここでは、北海道の自然が厳しくも美しく描かれている。石狩川も河岸が整備された今の姿ではない。枝川が多く流木が流れ、川の中に柳やニワトコが繁茂している。

また、廃藩置県で藩主と家臣との絆が法的に切れて、開拓団を抜けていく者もでてくる。また一方、昔風に荷物が届かない責任を取って自決する者も出る。開拓団が貧しい一方で、札幌の町は発展し、開拓使が募集した移住移民には家屋・農具・3年間の食料を支給され、開拓1段歩につき金2両が支払われ、自費移住の農夫には1段歩につき金10両が支払われた。そうした中、第2次の開拓移民800名を募りに岩出山に戻った伊達邦夷は44戸182名しか集められなかった。さらにその開拓移民団は伊達家家臣団とはならず、開拓使は一般の移民と同じ扱いにすることで3年間の扶助を保証し、移送船を出した。開拓使から開拓費用1万円を借り、その償還は札幌の町づくりに従事するという約束もした。

ほんの5年間ぐらいなのに時代が大きくうねって流れを変えていく。

四民平等の世の中にあって武士の特権は剥奪され、開拓農民になりながらも、開拓団を維持していく紐帯は伊達家であった。本書には書かれていなかったが、当別の開拓にあたって作られた村の規則には、村のことは衆議で決すべしとある。また土地は伊達家当主も含めて平等に4.1ha配分した。新しい時代にそった平等な運営が行われたのだ。一方、明治18年に開拓団の伊達家家中に士族復籍が許可されると伊達家当主を盟主とする士族契約を決める。その中に伊達家を保護することの1条がある。

開拓団は歴史的な使命を終えた。北海道の開拓はもう終わったように見える。しかし、北海道を旅行していると、「~~開拓団」の看板が目に付く。当別の伊達家開拓団の人々は士族契約をまだ護持しているのか、過去のものとして捨て去ったのか、仲良しクラブ的なものに変質したのか、興味は尽きない。

著者は続編を書く予定があったそうだが、出版2か月後に亡くなったので続編はない。

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