『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

翻訳  毎日毎日三日月3 

2015-01-22 16:49:59 | 翻訳

毎日毎日三日月3

         

ユン・ソンヒ(著者)

1999年(東亜日報)新春文芸短編小説〈レゴで作った家〉で登壇。小説集〈レゴで作った家〉〈君、あなた?〉〈風邪〉等。

 

 三姉妹の初仕事は三万ウォンだった。東大門市場でだった。着る服が別に無かった三女はあちこちショッピングして値段交渉した。自然にうきうきした遊び気分になった。初めて稼いだお金で三女はブルージーンズを買った。三女はその日七件したけれど、家に帰った時には、一文も残っていなかった。「私は十年お姉ちゃん達が捨てていった服だけ着た。」三女の一言に姉達は持っているお金をすっかりやってしまった。長女がしたように毎週月曜日は休んだ。そして雨が降る日も休んだ。三女の戦略が時たま助けになった。「誰か泥棒だ!」と叫ぶと次女は素早くその人が叫んだ所へ駆けた。長女の代わりの次女を捕まえた人々は、どんな証拠も見つけられなかった。三女は疑われないように周囲にある物をかまわず掴み取って支払った。一月が過ぎると、長女は妹達を呼んでこう言った。「稼いだお金の半分は無条件に貯金よ。」わかってみると家の価格三分の二が銀行貸出金だった。「お金もないのに、どうして家買ったの?」小遣いが一番少ない三女がぶつぶつ言った。「私達のような人はいつ捕まるかわからないから、家が必要なの。あるいは捕まって拘留されている間に家主が不渡りでも出して逃げたら、保証金もなくすのよ。」実際に長女と次女はそんな経験があった。それぞれ三ヶ月、六ヶ月過ごして出てくると、住んでいた家がなくなっていた。保証金五十万ウォンも一緒に。すりが出てくるドラマを見ながら、次女が不意にこんな提案をした。「私達が末っ子の仲人を務めよう。」次女は財布を盗んでみたら申し分のない人が時々いると言った。「名刺がある場合もある。職場も良ければ言うことない(錦上添花)。」そう言って長女と次女はすった財布を捨てずに家に持ってきた。晩になると財布に入っている身分証と名刺等を広げて品評会をしたりした。「この人は目尻が垂れ下がって嫌。」「顎が小さい人はあまりよくないね。」「あまり脂っこくなかった?」「私より三歳も若いじゃない。」結局、彼らは三十八歳の会社員を選んだ。三女は名刺にある番号に電話した。三女は女子トイレで財布を拾ったと嘘をついた。三女は四年ぶりに男と二人きりでご飯を食べた。男はホチキスを作る工場の工場長だと言った。「ホチキス?」三女が聞き返した。すると男がナプキン二枚を取り出し、親指と人差指で紙をつまむ真似をした。「こうです。紙をくくるんです。」別れながら男は財布を見つけてくれてありがとうと言った。「この写真のせいでどんなに腹が立ったかわかりません。」男は財布から古い写真一枚を取り出した。「ただ一つ残っている母の写真なんですよ。」その写真をよくよく覗きこんで三女は出し抜けにこう言ってしまった。「私の母はとても意気地がなくて他人を傷つける女だったそうです。」「お母さんはどんな人?」と尋ねると父はいつもそう答えたけれど、三女はその言葉がどんな意味なのか少しもわからなかった。帰宅の道すがら三女は次姉がしてくれた初恋の話を思い浮かべた。それで持っているお金を全部路上にいる乞食にやった。「どうしたの?」「また会おうと言った?」三女が返事をしないと姉達は三女の後ろを騒々しく追いかけた。更にトイレまで。便器に座って、トイレのドアの前でしゃがみこんだ姉達に三女は言った。「既婚男性だった。」次女は、「その年で結婚していない人を探すのはとても大変よ。」と呟いた。しかし、それからも長い間姉妹は毎晩財布を広げて様々な話を作った。警察に捕まった時に、箪笥にしまった数百個の財布は確たる証拠になった。

                  4

 三姉妹の父母が出会った場所はあるバスの中だった。その頃父は煉瓦工場の工場長を務めていた。建設景気が良かった頃で、煉瓦が倉庫に積まれる時間も惜しく売れていった。父はズボン二着とシャツ3枚で一年を辛抱した。寒い日でも父は社長の息子が着た古い毛織コートを引っ掛けた。母に会った日はシャツを着るには寒く、コートを着るには暑い季節だった。父は溜まったお金を 踏み倒して逃げた建設業者を探してY地域に行っていた。バスの中は酷い石油の臭いがした。横に座っていた女の顔がだんだん青白くなっていった。ビニール袋を持ってきてあげましょうか?」父が言った。女が首を振った。女はスカートで掌をしきりに擦った。その時、一人の男が突然席から立ち上がった。刃物を握っていた。「みんな、動くな。」男が声をあげた。男は一番前に近づくと中学生に見える子供を起こして立たせた。「車を回せ。青瓦台の前に。」その途端運転手が言った。「ちょっと、青瓦台へ行くのならソウルに行く車に乗らなきゃ。」運転手の言葉に何人かの人も笑った。男が子供の首に刃物を当てた。すると笑いが止んだ。「それでも行け。青瓦台へ。」乗客の中の誰かが「子供を相手にそんなことは恥ずかしいじゃないか。」と言った。「坊や、世の中はこれよりもっと恥ずかしいよ。」校服を着た子供が答えた。「わかります。しかし、人を殺せば小父さんの人生は終わりです。」その時突然横の席に座っていた女が乗り物酔いを始めた。父が席から立って前へ近づいた。男が「何だ?」と声を上げた。「乗物酔いです。」父は車にぶらさがっているビニール袋を二つむしりとって、再び席に戻った。運転手がUターンをする間、乗客の体が一方に傾く間、人質だった子供が男の横腹を肘で攻撃した。男の体がよろけた。その瞬間、運転手は目の前に見える電信柱に突っ込んだ。運転手は警察でこう言った。「青瓦台に行こうとしたのでスパイだと思いました。国を危うくするより自分のバスを壊すのがましですよ。」電信柱に突っ込んだバスは一周回ると畦の下に転がって落ちた。父はかすかに意識を失っていった。額に血が流れた。その時横に座っていた女が父の手を握った。どこからか胡麻油の臭いが漂った。父は母方の祖母の家に行く途中だったが、母の荷物には胡麻油が十本以上も入っていた。その臭いのせいなのか父は母にとんでもない約束をしてしまった。「ここから生きて出たら結婚しましょう。」そう言って父は窓の外を見た。割れたガラス窓越しに三日月が見えた。父は思った。「これから俺の人生はこういう胡麻油のように香ばしい臭いがするだろう。」父が三日月を眺めている時母は割れた窓の外に飛び出した男を見ていた。男の足が奇妙に曲がっていた。手には依然として刃物を握っていた。「死ね。」母はつぶやいた。三女は憂鬱になると三日月を見たりした。姉達が再び戻って来るのを待ちながら、三女は、遠い昔に父がしてくれた話を思い浮かべたりした。三女は話をくりかえすと、いつかは全く違う話が生まれることに気づいた。人質犯の目の下には切り傷ができて、人質だった子供はその事件がきっかけで警官になった。車がひっくり返った時、父は母を抱きしめて、その勢いで母の命を助けた。勿論、気がついた母は父の頬を叩いたけれど。三女は黒い画用紙をまんまるく切り抜いて居間の窓に貼り付けた。そうしてから横たわって窓の外を見ると、満月も三日月のように見えた。横たわったまま体を動かし、丸い画用紙が満月をいい具合に遮るまで、角度を合わせて三女は考えた。「姉達が帰って来て『これは何?』と尋ねても、絶対に答えてやらないんだ。お母ちゃんとお父ちゃんがどうやって会ったか、お姉ちゃん達には話さないんだ。」と三女は誓った。姉達を待ちながら、或いは姉達が末っ子を待ちながら、歳月が過ぎていった。

 実質的に三女が夢見た三姉妹すり団はいくらも活動できなかった。三人のうちの一人は刑務所にいたからだ。南大門市場で長姉に会ってから20年が過ぎた。長女は前科14犯。次女は前科18犯。そして三女は前科5犯になった。「言ったとおりでしょ。やはり家がなくちゃ。」14回目に刑務所から出てきた長女は姉妹が再び一つになれるのは家があるからだと主張した。長女がいない間次女と三女はアパート再建反対委員会を結成した。「お姉ちゃんがいない間にこの家が壊されたらいけないじゃない。」妹達は誇らしげに言った。姉妹が全員そろった記念に、姉妹はわざわざ明洞へ買い物に出かけた。クリスマスイブだった。「今日は敬虔な日だから仕事をやめよう。」長女が言った。しかし、姉妹は最近物価がどんなに上がっているか気づかなかった。買いたい物は多かったが、持ってきたお金は少なかった。「きっぱり一つだけしよう。」次女が言うや三女が「私がお金の臭いを嗅いで見る。」と答えた。三女が通りがかった女に道を尋ねた。うぶに見えるように方言を交えた。長女が剃刀で女のハンドバックの下を切り取った。その時、向こうから誰かが「ヨンミや。」と手を振った。「うん。」と二人の女が同時に答えた。一人は女でもう一人は長女だった。長女の名前もヨンミだった。同時に答えた二人の女は目が合った。しばらくして、事態を飲み込んだ女が叫んだ。「泥棒。」長女は駆け始めた。次女が反対側を駆けた。三女は無関係のように女の横に立って「泥棒。」と大声を上げた。その時だった。長女の膝が折れた。長女は、前を歩いている誰かの肩につかまろうと手を伸ばしたが届かなかった。虚空を突いた長女は歩道のブロックにそのまま倒れた。救急車の中で三女は姉に、父と母がどうやって出会ったかを話してやった。「お姉ちゃん、縁というのはそれほど素晴らしいのよ。」三女は言った。医者は関節炎だと言った。「もう走れないね。」長女はしかめっ面をして笑った。家に帰った長女は妹達に言った。「今晩居間で一緒に寝よう。」三女が真ん中で横になった。長女が体を回して三女の横顔を見ながら言った。「もう引退するよ。最近は六十歳になる前に皆定年退職していたのに、私達はそれよりもっと長く働いた。」そうすると次女が体を回して三女の横顔を見ながら返事した。「お姉ちゃん、刑務所で休んだ時間を抜くと、それよりもっと少ない。」三女が寝床からぱっと起きた。「率直に言えば、私真ん中で寝るのは嫌よ。で、私達のいかす引退式をしよう。」

 三女は多用途室でボックスを取り出してきた。そこにはその長い間に財布を盗んだ人達の身分証が入っていた。「もうこれを集めるなと言っていたよね?」長女が言った。三女は身分証を板敷きの床に広げた。「わかってる。でも私と年が同じ人達は捨てられなかったのよ。この人達はどう生きているか興味もあって。」三女はその身分証を届けてやりたいと言った。「私達の引退記念としてね。」長女は膝をしきりに叩きながら、自分が関節炎であることをもう一度思い出させ、次女は両耳を遮断して音程拍子が一つも合わない鼻歌を口ずさんだ。「いいよ。これが八番目の願いよ。」長女は三女の言葉がどんな意味なのか覚えていなかった。「とっくの昔に全部使わなかった? 十個全部使ったと記憶しているんだけど。」次女が言い張ったけれど無駄だった。身分証は全部で三十七枚だった。ソウルが十六枚。京畿道が十枚。忠清道が二枚。江原道が五枚。全羅道が三枚。済州道が一枚。三女は六泊七日の日程でレンタカーを予約した。「ナビで探せば簡単なはずよ。」助手席には次女が座った。トランクには携帯用のガスレンジとブタンガスを用意した。ラーメンも。「旅行に行く気分で、出発!」ソウルを回りながら、姉妹は昔の住所がほとんど消えたことを知った。せっかく訪ねていってみると、アパートに変わった所が大半だった。満足に住所が見つられた所は七ヵ所に過ぎなかった。その中で門の表札と住民登録証の名前が一致した所は五カ所だった。三女は「ちゃんと行け。」と挨拶してから郵便箱に住民登録証を入れた。「ところで、この住所に住んでいなければどうなるのよ。引越ししたんだったら?」「それは身分証の運命よね。」住所が見つからない身分証を持って、三姉妹は南山に登った。パジョン(お好み焼き)と人参マッコリを食べてから、下る途中で身分証を埋めた。そして京畿道と忠清道を経由して江原道へ行った。風景が良い所に車を止めてラーメンを煮て食べたりした。「実は私達は一度も海を見たことがないのよ。」長女と次女が言った。三女は姉達のために国道七号線を飛ばした。全羅道では身分証の住民と直接会ったりした。郵便箱に身分証を入れようとする瞬間、屋上でタバコを吸っていた男が言った。「何をしてるんだい?」三女は「もしかしたら金ヨンジンさんですか」と尋ねた。男はそうだと答えた。「もしかして十五年前に財布をなくさなかったですか?」その言葉を聞いた男が「ちょっと待ってください。」と言って下りてきた。三女は男に自分達がしていることを説明した。「それでこれが引退式なんですか?」男が聞き返した。「はい、すみませんでした。」三女が謝罪した。男は財布をなくしたおかげで、妻に会ったと話してくれた。「ターミナルで切符を買おうとしたが、財布がなくなったのがわかった。仕方がなくターミナルで切符を売っていたお姉さんに事情を話したんだ。」「それでその方と結婚なさったんですね。私達が媒酌人ですね。」次女が笑った。再び車に乗って出発しようとする姉妹に男が言った。「実は私達は幸せではない。性格が全く合わないんだ。」三姉妹は最後に済州島に向かった。木浦ターミナルから船に乗ったが、その時になって初めて三姉妹は一度も飛行機に乗ったことがないということに気づいた。「次はきっと飛行機に乗ろう。」三女が言った。波は荒かった。三人はベッドに並んで横になり天井だけを眺めた。「ここで死んだら全部あんたのせいだ。」長女が言った。「私はね。」しばらくして長女がもう一度口を開いた。妹達は何も返事しなかった。「率直に言えば罪悪感に囚われるに度に、眼鏡をはずして世の中を見るのよ。眼鏡をはずして道を歩くと、人々の目、鼻、口が崩れて見えた。そうすると心の奥深い所から大丈夫という声が聞こえた。」「私はね。」次女が口を開いた。そうすると長女は「何よ、寝ないの。」と呟いた。「罪悪感に一度も陥ったことがない。でも時々お母ちゃんにふくらはぎを打たれる夢を見ることはある。」三女が起き上がった。「どうしたの?」「おしっこ。」トイレに行った三女は長い間戻ってこなかった。「落ちて死んだりしたかも?」長女と次女は三女を探しに甲板に出た。三女は両腕を伸ばしたまま、甲板に描かれた線に沿って歩いていた。「あんたはどうして私の履物をはいているの?」長女が尋ねた。「私はこういう大きい履物を履いて歩くのがいいの。足からがたがた音がするようで。」三女は姉達が残して行った履物を履いて成長した話をしなかった。その履物を履きながら、いつか自分の足が履物の大きさほどに成長したら、家を出て行こうと決心した話もしなかった。しかし、二人の姉は三女の言葉が意味を理解した。「まだ願いが二つ残っている。ここで九番目の願いを使うかい?」海風が冷たかった。どんなにご飯を食べても足は成長しなかった。「ごめんなさいと言って。」三女は言った。長女は「あ、寒い。」と答えた。次女は「夜には海も黒くなるんだね。」と呟いた。

                               ― 完 -                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    

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