読書感想127 私の庭 北海道無頼編
著者 花村萬月
生年 1955年
出身地 東京都
出版年 2009年
出版社 (株)光文社
感想
本書は「私の庭 浅草篇」の続編にあたる。前作を読んでいなくても十分わかる、独立した読み物になっている。
時は明治初期。浅草で新門辰五郎の身内16人を切った権介、その二人の妻、アイヌ人のイポカシと和人のアキカゼ、それにイポカシとの間の息子、元介。この4人は十勝の森の中でひっそりと暮らしている。一方、権介の弟分の茂吉は函館を拠点にマル茂というやくざ一家を作り上げ、北海道全域、樺太、東北地方一帯、新潟、東京まで勢力を広げた。茂吉は食い詰めた者を最後に救い上げるのがやくざの使命だと考えている。
幼児の時から父親に仕込まれた天才剣士、元介はひょんなことから新門辰五郎の身内の中間鐵五郎の養子になる。札幌に拠点を置き警察の補完機関となっていた中間組と、新興のマル茂の争いに元介は巻き込まれていく。
前半は権介とアキカゼのなれそめとか、茂吉の飲み屋の女将との浮気場面がだらだら続いて面白くない。どちらも男の夢としか言えないような男性優位な情交を繰り返す。別人の情交場面とは思えないほどそっくりだ。正反対の生き方をする権介と茂吉の両方とも変な男で、そのどこに女が入れ込むのかとうんざりする。どちらも身勝手で腕っ節だけ強い。
元介が十勝の森を出て中間鐵五郎の養子に入ってからがおもしろくなる。物語の展開も速くなり、一気に盛り上がっていく。元介には一本気な純粋さがある。
マル茂というやくざ組織は北海道に実在したという。全国各地から北海道開拓に入植した人々の中には、アウトローもいたのだろうが、開拓地のような刻苦勉励して働かなければならない土地で、遊び人のようなやくざは存在理由も価値もなかっただろう。