読書感想84 DNAでたどる日本人10万年の旅<o:p></o:p>
著者 崎谷満<o:p></o:p>
生年 1954年<o:p></o:p>
出版年 2008年<o:p></o:p>
出版社 (株)昭和堂<o:p></o:p>
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感想<o:p></o:p>
著者は京都大学で医学博士の資格をとり、専門は分子生物学・分子腫瘍学・ウィルス発癌(成人T細胞白血病ウィルス研究)・血液学(臨床腫瘍学)・緩和ケアであり、長崎大学、京都大学での研究を経て、1997年にCCC研究所を設立し、DNA多型分析などから日本列島ヒト集団の成立史および伝統文化の分析を行ってきた。<o:p></o:p>
本書は、前回取り上げた「DNAが解き明かす日本人の系譜」(2005年)から3年後の著書である。ここで分析の指標になっているのはDNA(遺伝子)の中のY染色体によるハプログループの分岐時期と分布である。Y染色体では父系をたどる。著者の骨子は次の点にある。<o:p></o:p>
現世人類はアフリカで20万年前から10万年前に誕生したと推定されている。Y染色体による分類では18系統5グループに分かれる。5グループのうちA系統とB系統はアフリカに留まり、3グループがアフリカを出た。C系統が出アフリカの第一グループ、DE系統が出アフリカの第二グループ、FR系統が出アフリカの第三グループである。日本では出アフリカの3系統、つまりC系統、D系統、O系統が共存している。DNAの多様性が高いヨーロッパのような地域でも2系統しか見いだせないことからも、日本のDNAの多様性は注目に値する。日本にしか見られないD2は高頻度に、C1もわずかに存在している。<o:p></o:p>
「日本列島へは、後期旧石器時代にC3系統、Q系統のヒト集団(移動性狩猟文化)が、新石器時代にはD2系統(縄文文化)、C1系統(貝文文化)およびN系統のヒト集団が、金属器時代以降にはO2b系統・O2a系統のヒト集団(長江文明)、またその他、O3系統(O3e系統は黄河文明と関連)、O1系統(オーストロネシア系)などのヒト集団が渡ってきて、現在までもそれぞれの集団を維持している。」<o:p></o:p>
一方ユーラシア大陸東部では漢民族に関連するO3系統の膨張によって、C3系統やD系統、他のO系統を少数者に追い込んでいった可能性が高い。日本列島の豊かな自然環境によってユーラシア大陸で敗者になったヒト集団が生き延びることができたのではないか。さらに金属器時代(弥生時代)にユーラシア大陸東部の戦乱によって難民化した人々が日本列島にわたってきたが、少数の人々が数次にわたって移動してきて、先住民と争うことなく平和共存の道を選んだと推定される。<o:p></o:p>
「この日本列島は大陸での弱者集団、負け組が生き残って現在まで至ることができたという優しい環境を提供してきた。このDNA、文化、言語の多様性維持は日本列島の伝統的な価値であり遺産である。」<o:p></o:p>
多様なDNAが残っているということから、共存共栄の暮らしや助け合いの精神が生まれたと推測するのは説得力がある。和の精神も長い伝統に裏打ちされているということだ。権力を求めるところや優劣を競うところとは真逆の精神構造だ。少しでもいい伝統は残して行かなければと思う。
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