『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

翻訳  朴ワンソの「裸木」26

2013-07-02 23:54:48 | 翻訳

 

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翻訳  朴ワンソの「裸木」26<o:p></o:p>

 

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 一日中憂鬱から脱け出せなかったことと、やはり照れくさい喜びから、この全身を排除しておくことはとうていできないと、よくわかっていた。<o:p></o:p>

 

「何か、いいことでもあったの?」<o:p></o:p>

 

 彼も少し明るくなって尋ねた。私はそのまま肩をすくめて首を反らして舌を突き出して、落ちてくる雪のかけらを美味しく嘗めた。<o:p></o:p>

 

「一日中、しかめっ面だから…」<o:p></o:p>

 

「フフフ…そうなのかい?」<o:p></o:p>

 

「もともとの気まぐれもあるし」<o:p></o:p>

 

 私は返事の代わりに彼に一層寄り添ってぶら下がった。<o:p></o:p>

 

 雪が降る時に、誰かがすっくと雪の中で待っているとは、なんて素晴らしいことなんだろう。<o:p></o:p>

 

 時折通り過ぎる頑丈な軍用トラックが照らす二筋の強烈な光の中で、雪の乱舞をひとしおうっとりと眺めた。<o:p></o:p>

 

 その中に先日のきちんとした、きらめく断片がふわりと混じり始めた。それは、ただ断片だけで互いにどんな関係もない回想で、少しも感傷が混じらないままだから、私はそれを負担なく楽しめた。<o:p></o:p>

 

 登校路でふと首を反らして仰ぎ見る街路樹のまぶしい新緑と日の光の弔歌。外出する黒い外套の父と、いつも少し離れて歩く豪華な空色の絹の外套を着た母。大晦日の膳の上にきちんと並べられたふっくらした饅頭。初めての背広を着た日のヒョギ兄さんとウギ兄さんの見間違えるほど素敵だった姿。母と私が共に好きだった母の所持品。カワウソの皮の襟巻といつも嵌めていた太い金の指輪。のどかな日に中庭に落ちてきた紫の桐の花。<o:p></o:p>

 

 私は自分の中に隠しておいた絵葉書が多すぎてまごついたが、嬉しかった。しかし、童心が絵を見て喜んだだけで、絵葉書を集めて物語を創るほど私は愚かではなかった。<o:p></o:p>

 

「病気見舞いなのに何も買わなかったの?」<o:p></o:p>

 

 ふと泰秀がある露店の前で止まった拍子に私もはっと我に返った。<o:p></o:p>

 

 実が小さいけれど固く赤黒く熟した紅玉を、露店の小母さんが布きれで一心に磨いていた。私はその中からきれいなものだけを選び出して袋に詰め始めた。きれいなものを幾度も運んできて、かなりずっしり重い袋になり、泰秀はお金を払った。<o:p></o:p>

 

 再び歩きはじめた私は、りんごをその赤く固い果肉をかじりたくてうずうずして我慢できなかった。<o:p></o:p>

 

 私はりんごを取り出して泰秀にまず1個やってから、一口さくっとかじってさくさく食べ始めた。さくさく爽やかな酸味とさくさくした快感。さくさく、私はたてつづけて何個かのりんごを食べた。さくさく。<o:p></o:p>

 

「冷たいものを食べすぎているね」<o:p></o:p>

 

 泰秀がりんごの袋を奪い取って向こう側の手でつかみ、もう片方の手を私の腰に巻き付け、とんでもないことを持ち出した。<o:p></o:p>

 

「りんごをさくさく食べる頬が赤い男の子を持ちたくない?」<o:p></o:p>

 

「その子は一体全体誰に似ているの?」<o:p></o:p>

 

 私も精一杯突拍子もない返事をしてやった。<o:p></o:p>

 

「その子はキョンアと僕に半分ずつ似ているんだ」<o:p></o:p>

 

 彼の顔が息遣いが触れるほどぐいっと近づいた。<o:p></o:p>

 

「あらあら…」<o:p></o:p>

 

 私は大げさに驚くふりをしながら、心の中で泰秀がちょっと哀れだった。頬が赤い男の子も悪くはないけれど、そういうものを得るにはあまりに長い歳月がかかる。あまりにもはるかな時間、5年や10年ぐらい。すぐ山の向こうに戦争があるという、この殺伐とした街で5年後や10年後の夢を見るなんて何と言う愚鈍か。<o:p></o:p>

 

 私はそんなにゆっくり生きられない。とても常識的でも緩やかなレールから果敢に脱線して近道へ、生きる楽しみを素早く嘗めながら行かねばならないのだ。<o:p></o:p>

 

 泰秀はちょっときまり悪そうに、私の腰から腕をほどいて口をつぐんでしまった。<o:p></o:p>

 

「電車に乗るかい? このまま歩くかい?」<o:p></o:p>

 

 電車の停留場を二つぐらいすぎてしまってから、泰秀が間の抜けた質問をした。<o:p></o:p>

 

「オク先生のお宅はどのへんなの?」<o:p></o:p>

 

「そこが恐らくヨンジ洞とか…」<o:p></o:p>

 

「自信があるの、家さがしに?」<o:p></o:p>

 

「知っているよ、前にも何度も行ったことがある所だ。避難した兄の友達の家に入っていると言っていたな」<o:p></o:p>

 

 ちょうど電車の停留場付近まで来た時、がらんと空いた電車が来て、私達は乗車した。鐘路4街で降りると泰秀はさっさと歩いた。大通りから路地にさしかかると、時々ぐずぐずすることもあって、きょろきょろ見回すこともあった。オク先生のお宅が近い気配だった。<o:p></o:p>

 

 私はだんだんある熱気のようなものに包まれていった。5年後や10年後の頬が赤い少年を夢見ることには、慌しすぎる渇望、自暴自棄とも通じる渇望に私は追いかけられていた。<o:p></o:p>

 

 とうとう彼はある低い瓦葺の家の前で止まると、懐中電灯を取り出して表札を照らした。オクヒドという表札ではなかった。<o:p></o:p>

 

「この家だね、何回も来ていても、こんな夜道は初めてだ」<o:p></o:p>

 

 2回ほど門をたたくと、かんぬきを開けて外を見たのは、背がほとんど私ぐらいの女の子で、その後ろにごちゃごちゃいる子供達がわあっと出てきて騒々しい様子が、特にお客だということで迎えられていないことがよくわかった。<o:p></o:p>

 

 母屋は広い板の間に蔀戸がしっかり閉められて、舎廊にだけ弱い灯が灯っていた。<o:p></o:p>

 

「泰秀です。オク先生いらっしゃいますか?」<o:p></o:p>

 

「何、泰秀? 君、どうした?」<o:p></o:p>

 

「はい、キョンアも一緒です。具合が悪いのはどこですか?」<o:p></o:p>

 

「ちょっと、寒いから早く入ってくれ」<o:p></o:p>

 

 灯が照らす障子を間にしてこんな会話を交わしながら、私達は外套を脱いで雪を払った。中では急に片付けている気配だが、静かに障子が開いて奥さんらしい女性が外を眺めた。<o:p></o:p>

 

 その間、子供達は私達を取り囲んで好奇心いっぱいの瞳で見つめて、自分達同士でくすくす笑ったりした。<o:p></o:p>

 

「入って来てください」<o:p></o:p>

 

「入って来いよ、むさ苦しいけど」<o:p></o:p>

 

 オク先生は上座に広く敷いた布団の上に斜めに座って、奥さんが私たちの外套を丁寧に受け取って掛けた。<o:p></o:p>

 

「何、これは大した風邪じゃないけど、こんなに雪まで…とにかくありがたく」<o:p></o:p>

 

 オクヒドさんはまだ言葉を終える前にも酷い咳の発作を起こした。その間奥さんは静かに片手を夫の背に当てて、咳が止まるのを待って、素早く陶磁器の灰皿を口に当てがった。痰を吐かせる動作は静かでも真心がこもっていた。近頃流行っている咳は酷い悪性の風邪のようだ。<o:p></o:p>

 

「お兄さんは近頃もうかっている?」<o:p></o:p>

 

「さあ、いつも走り回ってくらしていますが」<o:p></o:p>

 

「お互いに生きているだけなので、一生懸命だけど恨んでほらを吹く間柄ではないし…」<o:p></o:p>

 

「兄もいつも同じことを言っていますよ」<o:p></o:p>

 

 彼らがぽつりぽつり面白くない会話を交わしている間に、奥さんはそばに集まった子供達に私達が買ってきたりんごを1個ずつ持たせて隣の部屋へ追い出して、お皿にりんごを薄く切って盛り始めた。私はそんな彼女を鋭く観察した。<o:p></o:p>

 

 少し黒い筒状のチマに、上半身は国防色の男性用にならったジャンパーをひっかけたみすぼらしい恰好が、彼女の繊細な首と顔を却って引き立てていた。

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