燃えるフィジカルアセスメント

総合診療医Dr徳田安春の最新医学情報集

ピットフォール 6

2015-04-11 | 症例集

 今回も循環器徴候についての症例集です、今回はちょっと長めです

症例5   78歳女性  主訴:呼吸困難

 2週間前に自宅で転倒により右大腿骨頚部骨折。翌日手術を施行された患者。今朝(術後14日目)より急性発症の呼吸困難感あり。咳、痰、発熱、喘鳴などはなし。

 バイタルサイン:血圧100/80mmHg、脈拍130/分、呼吸34/分、体温36.3℃、身体所見上、内頚静脈圧が10cmH2O(胸骨角より頚静脈拍動の頂点までの垂直での高さは5cm)と上昇していた。肺野の聴診ではラ音を聴取せず。心音で第二音の肺動脈成分(P2)が亢進。胸部レントゲン写真では特に陰影を認めなかった。

● ピットフォール

 担当医は誤嚥性肺炎を考え抗菌薬投与を指示した。低血圧は「脱水」によるものと考えた。

● その後の経過と解説

 骨折術後の経過中に突然発症する呼吸困難では、肺塞栓を考える。脈拍が収縮期血圧値より大きくなっており、「バイタルの逆転」を示している。「バイタルの逆転」はショックを示唆している。この患者のショックの鑑別では、内頚静脈圧が10cmH2Oと上昇しているのがポイントである。すなわち、脱水や出血(低容量性ショック)、敗血症や迷走神経反射(血管拡張性ショック)では、静脈圧は低下するが、肺塞栓では静脈圧は上昇する。

 低静脈圧型ショックは頻度も多く「通常型ショック Common Type Shock」とも呼ぶべきものである。通常型ショックの初期治療は迅速大量輸液である。逆に、高静脈圧型ショックは頻度が少なく「非通常型ショック Uncommon Type Shock」とも呼ぶべきものである。初期治療はポンプ機能の改善(心原性ショック)または循環閉塞の解除(閉塞性ショック)である。このように、静脈圧はたいへん有用であり「第5のバイタルサイン」とも呼ぶべきである。

 静脈圧の推定は中心静脈ラインを用いて行うこともできるが、その推定は身体所見で行うことができる。身体所見での静脈圧は一般的に、頚静脈圧 jugular venous pressure (JVP)を側定する。頚静脈には内頚静脈と外頚静脈があるが、静脈圧を正確に測定する場合には、上大静脈と直接直線的に接続している「内頚静脈」を用いる。外頚静脈の観察が容易な患者の場合、外頚静脈を用いた静脈圧の推定を行ってもよい。ただその場合は正確度が落ちる。外頚静脈は上大静脈に直通しておらず(2回の分岐でつながる)、静脈弁もあり、かつ内頚静脈より細いからである。内頚静脈と外頚静脈のいずれも観察が困難な場合には、手背静脈を利用してもよい。

 骨折術後の経過中に突然発症する呼吸困難でCXR正常のときは肺塞栓を考慮し、高度の肺動脈圧でP2亢進していることを確認する。この患者では、ECGでも、四肢誘導のS1Q3T3、胸部誘導のinverted T を認めた。造影CT検査で左肺動脈幹部に血栓陰影を認め、重症肺塞栓に対する治療(血栓溶解療法+抗凝固療法)が開始された。その後、症状軽快した。

 肺塞栓の原因となる血栓の由来は下肢や骨盤が多い(約90%)。上肢の静脈系には局所のt-PAが多いために血栓ができにくい。

● 最終診断:重症肺塞栓

 今回は以上です、話変わって、日本人で唯一参加しているマスターズの松山選手には頑張ってほしいですね、去年は無念の予選落ちでしたから、今回は是非トップ10に入ってほしいですね、タイガーウッズも気になりますが、では次回に。


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