フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 井上隆史さんが昨年出版した『三島由紀夫 豊饒なる仮面』(新典社、2100円)の書評を書きました。書いたのは、『三島由紀夫研究⑨』(鼎書房)にです。
 私は三島由紀夫研究者ではありませんが、日本文学研究者として、当然三島という作家に対する関心は強く持っています。また、この本のような「三島由紀夫評伝」という仕事に対しては特に強く関心があります。というのも、三島という作家は、多くの作家の中でも特にその「実人生」と「作品世界」との関連に大きな課題があり、それだけに、作品を単独に論じるのではなく、「実人生」と「作品世界」の関係を論じることに大きな魅力を感じるのです。
 ただし、その仕事は大きな魅力であるのと同時に、大きな危険をはらむ仕事であることもよくわかっているつもりです。三島という作家は、「実人生」と「作品世界」の関係が他の作家以上に深いからこそ、それをどのように論じるかは慎重を要する問題ですし、うっかりすれば安易な作家還元主義におちいってしまうことも予想されます。
 そういった大きな「魅力」と「危険」をはらんだ「三島由紀夫評伝」という仕事に、井上さんがどのように取り組んだのか。それは私の書評、または井上さんの本を直接読んでほしいのですが、少しだけ書くとすれば、本のタイトルにもなっている「豊饒なる仮面」というのが重要なキーワードになっています。
 井上さんは、三島由紀夫という作家、そして人物の多面性をいったん「仮面」としてとらえ、しかしその「仮面」がそれぞれ、いかに三島という人間のアイデンティティと密接に関係しているかを論じるという方法を採っています。すなわち、「仮面」という武器を持つことが自分を隠すことと表すことの二重性を持ち、その二重性こそが三島のアイデンティティにつながるという考え方です。
 こうした興味深い考察とともに、三島の伝記的な事実に関する新しい発見・指摘もあり、三島研究にとって重要な本であることは間違いありません。
               


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