考えるための道具箱

Thinking tool box

アイラ島のシングル・モルト。

2004-11-14 10:44:16 | ◎読
住んでいる地区の球技大会の打ち上げで、日ごろから親しくしていただいている方のマンションの一室に数人が集った。各家庭がちょっとした料理と酒を持ち寄り、ふだんの仕事のこととか、ライブドア球団のこととか、趣味の話などを、気取らず気張らず語り合うフランクな会合だ。

ちょっとした料理といっても、それは馬刺しであったり、豚の煮込みであったり、とウィークデーには味わえないものが集まってきて、そうとう豪華になったりする。
酒についても、それぞれがふだんから極私的に好きだと感じているものや、新しくできた焼酎専門店で発見してきたものをここぞとばかりにもってくるわけだから、そうとうなバリエーションになる。

そこでごちそうになったのが、スコットランドのシングル・モルト・ウィスキー「LAPHROAIG(ラフロイグ)」だ。話には聞いていたが、この初めての体験に、ぼくはいささか言葉を失ってしまった。土臭いというか磯臭いというか、いずれにしても荒々しいクセのある香り。おそらく豊潤とは呼ぶことができない、シンプルでドライで刺激的な舌ざわり。まさに、シングルであるがゆえの力強さに、一瞬にして魅了されてしまった。

そもそも、ぼくは蒸留酒に限ったハードリカー派なのだが、ここ数年は焼酎への志向が高まり、新しい銘柄を探すことにやっきになっていたため、洋酒へのアンテナは稼動していなかった。焼酎については、一度飲んで銘柄は失念してしまったが、その独特の焦げ臭さい風味に受けたショックが忘れられず探し続けているものがあるのだが、「LAPHROAIG」には、まさにそのとき以上の驚きがあった。

早速、翌週、家内に依頼し酒販店で、シングル・モルト・ウイスキーを求めた。これもまた話には聞いていた「BOWMORE(ボウモア)」を購入し、いままさに、その燻しの煙のような愛すべき香りに包まれながら、この文章を書いているというしだいだ。

このウイスキーの薀蓄をもう少し知りたいと思い、書棚から村上春樹の『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』(平凡社)を引っぱりだしてきて再読してみた(※)。確か、初読当時も、彼の言葉の巧みさに動かされ、シングル・モルト・ウィスキーに強い興味がわいていたことを思い出した。

ここで語られてる、シングル・モルト・ウィスキーの系譜を列挙することで、このウィスキーの魅力がわかってもらえるだろう。
◎「あまたあるスコットランドの島々の中から、小さなアイラ島が、シングル・モルト・ウィスキーの「聖地」となり、そのわずかな数の人口が大英帝国の歳入の大きなパーセンテージを生み出す」(注:したがって、「LAPHROAIG」「BOWMORE」は、正確には、アイラ島のシングル・モルトという言い方になる)

◎「今でこそ、アイリッシュ・ウィスキーはスコットランド・ウィスキーの陰に隠れたマイナーな存在になっているが、過去においては(1920年代までは)ウィスキーといえばすなわちアイルランドの特産品であった。」

◎「アイラ島には良いウィスキーを生み出すための原料がたっぷり揃っていた。大麦、おいしい水、そしてピート(泥炭)である。」

◎(広い土地がなくグレイン(穀粒)を豊富に生産できなかった)「アイラはもっぱらいわゆる「シングル・モルト」ウィスキーを生産し、それをブレンド用に(!)本土の「スコッチウィスキー」生産者に売却するというシステムが長いあいだ続いてきた。「ジョニー・ウォーカー」とか「カティーサーク」とか「ホワイト・ホース」といった有名ブランドは、みんなこのブレンディッド・ウィスキーである。」

◎「最近になって、急速に、シングル・モルト・ウィスキーが世界中で愛好されるようにな」った。

◎(まさに薀蓄の温床であるが)「スコッチには氷を入れてもいいけれど、シングル・モルトには氷を入れてはいけない。赤ワインを冷やさないのと同じ理由で、そんなことをしたら大事なアロマが消えてしまうからだ」


など。アイラ島のシングル・モルトについておおむねの知識が習得できる。もちろん、酒は知識で飲むものではないのだけれど、このシングルモルトについては、このことがスコットランドの荒地や寂寥とした灰色の空と海の香りをイメージさせ、そのハードさも含めた味ということになるかもしれない。

村上春樹は、香りと味については、説明するのが難しく実際に飲んでいただくしかないとするものの、
一くち飲んだらあなたは、「これはいったいなんだ?」とあるいは驚かれるかもしれない。でも二くち目には「うん、ちょっと変わってるけど、悪くないじゃないか」と思われるかもしれない。もし、そうだとしたら、あなたは---かなりの確率で断言できることだけれど----三くち目にはきっと、アイラ・シングル・モルトのファンになってしまうだろう。僕もまさにそのとおりの手順を踏んだ。
と、紹介しており、ぼくもまさにこの手順を踏んでしまった。きっとしばらくは、彼が紹介する以下のリスト順に、新しい香りと味を求めることになるだろう(クセの強さ順)。
 (1)アートベッグ(20年)
 (2)ラガヴリン(16年)
 (3)ラフロイグ(15年)
 (4)カリラ(15年)
 (5)ボウモア(15年)
 (6)ブルイックラディー(10年)
 (7)ブナハーブン(12年)
ちなみに、いまぼくが味わっている「ボウモア」は、8年にも拘わらず、静かでやさしくなつかしい味わいを与えてくれているため、上記、15年はもちろん、12年、30年…などへの期待は高まる。ボウモアには、このほか「ドーン」「ダスク」などの銘柄もあり、まさにスコットランドの夕闇の味が詰め込まれていそうだ。

ちなみに、同書で、村上春樹は、生牡蠣にシングルモルトを「とくとくと」かける食べ方を紹介しているが、これはたまならないなあ。

あ、アイルランドといえば、今週はU2の新譜ですね。

---------------------------------------------
(※)なぜか、最近村上春樹さんばかりで恐縮です。この手のエッセイは、やはり読者である私にとっても、ガス抜きになるなあ。巧い、という以上の言葉はありません。



↓愛すべき、シングル・モルト・ウィスキーのために
↓ワン・クリック!を。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿