考えるための道具箱

Thinking tool box

◎『中身化する社会』

2013-05-18 22:39:52 | ◎読
『中身化する社会』(菅村雅信/星海社新書)。発売されたときに面白そうだなあと思って書店で開いたページが「ワーク・シフト」の紹介だったのでよくある働き方指南本かと思いスルーしてしまったのだが、壮大な勘違い。一気に読み終えた。

「テレビや広告などによるイメージ操作は、ほぼ効かなくなった。……商品もサービスも、そして人間までも、その「中身」が可視化され、丸裸にされてしまう社会の中で、もはや人々は見栄や無駄なことにお金や時間を使わなくなる。そして、大量消費的な流行に流されず、衣食住すべてにおいてより本質を追求するようになる。」(カバー文より)


といった現象を、海外も網羅する定性ファクトを集めて解説している。巻末にまとめられた膨大な引用・参照一覧が目に入ったことで、再びこの本を読もうという気持ちが盛り上がった。

紹介されている引用は例えばこんな感じ。

●ブルックリンのカフェ・レストラン「Malpw&Sons」~『DINER JOURNAL』
●ブルックリンのカジュアルファッション・ブランド「OUTLIER」 http://outlier.cc/
●『消費社会の神話と構造』ボードリヤール
●『Casa BRUTUS 特集:世界最高のデニム選び』
●『MAKERS』(クリス・アンダーソン)
『ACQTASTE(ACQUIRED TASTE MAGAZINE)』
●アメリカのハンドメイド通販サイト『Etsy』を紹介する日経の記事(「米国発さらば規格品社会」村山恵一)
 ●『POPEYE 特集 ニューヨーク・シティガイド』
●アメリカのオーガニック情報サイト『Maria's Farm Country Kitchen』
『Couchsurfing』(宿泊先交換サイト)
●アメリカのさまざまなライフスタイル情報誌『ATLAS QUARTERLY』『 3191 Quarterly』『apartamento』
●『動物化するポストモダン』(東浩紀)
●『クォンタム・ファミリーズ』(東浩紀)
●『評価経済社会』 (岡田斗司夫)
●『ドーン』(平野啓一郎)
●『私とは何か -「個人」から「分人」へ』(平野啓一郎)
●『村上朝日堂』(村上春樹)


これらはほんの一部。いったい何についてかかれた本なのか?と思うほど多岐にわたる情報網。『KINFOLK』を大きく取り上げているところからみても、これらの筋は信頼できるんじゃないだろうか。

著者の菅村雅信は、エディターだけあってファクトへの嗅覚とハイライトのあて方はすばらしく、やや強引であるとはいえ一定のストーリーとしてまとめ込めているところはさすがだなとは思う。資料としての活用度も高い。この手のニュータイプの新書は、どうしても著者の薄いひとり語りになりがちだが、違和感のある独自の意見を滔々と述べられるよりも、たとえ見解は弱いとしてもこんなふうにただただ事実を集めて教えてもらえるほうが、考えは広がる。

さて、ほんとうに「中身化する社会」が進行しているのか?といえばこれはなんともいえない。

「工芸、音楽から食、旅行、ものづくり、広告、ライフスタイル、そして消費全般まで、人々がよりシンプルで本質的なものを求める傾向が高まっているのは間違いない。……ソーシャルメディアによってイメージをふるいにかけ、見せかけを省き、い実質に、中身により到達しやすくなった時代の中で、人々は「イメージに頼らない本質の追求」という新しい競争状態に入っている」(菅付雅信)

「よい世界」ではある。豊かさの定義が変わる時代になりつつあるのは確かで、個人的にもそういった世界を待望するところはある。しかし、「中身化」を追求するためにはそれ相応の「時間」が必要で、それを確保することはじつは難しい。個人の能力(技術、プレゼンス)に依存するところも大きい。その点では、ひとりが果敢に立ち向かうにはリスクも大きい。

ともすれば、迷い人を「ここではない、どこか」誘うライフスタイル提案と誤解されることも多いだろう(利用されることも多くなるだろう)。容易に想起できるのは現実逃避としての「ノマド」。そして、「LOHAS」。ただし、マーケティングの仕込みであった「LOHAS」よりは、(定常化社会が間近に見えてきたぶん)地に足のついた議論しているとは思える。それだけ時代が変わってきているということだろう(激変があったということだろう)。あの頃に比べ、確かに世界は「見える化」している。

「消費」ではなく「生産」の愉しみにこそ優位を感じる生き方。虚飾・虚栄のない「本質」を正しく交換できる世界。いずれにしても善きことではある。

「ラグジュアリーから実用性へと、人々の関心が以降していると思う。実用主義が新しい時代の兆候と見なされ、人々はそちらへ向かっているね。それは知的な行為だと思う。もしクラフトマンシップ(職人の技能)の高いジーンズを買う場合、人々は”このジーンズのコットンはどんな種類で、どんな環境で育てられ、どのように作られたか”を語ることができる。それは情報主導型の行為だ。そして結果的に、ハンドクラフトの流行は多くの技術と仕事を生み、そして人々をもっと刺激するだろう」
「ライフスタイルが競争的になり、他人のライフルタイルが丸見えになっている時代」
(フリーマンズ・スポーティング・クラブ/バーバーのリキ・バイロン)

「自分の手で何かを作るのは、とても落ち着いて、自分を再確認できて、そしてリラックスできることなんだ。ものを作れるとき、あなたは単なる消費者でなくなるはずだ」(オムニコープ・デトロイのアンドリュー)

「僕らは読者に、自分たちの生活にもっと意識的かつ注意深くあってほしいと思っている。僕らはもっと満たされた生き方をしたいと思っているし、意味のある生活を見つけたいと思っている。……クオリティのある生活は、そのために仕事をする価値があり、そしてそれこそが人生を満たすものだと、みな思うようになっている」(『KINFOLK』の編集長ネイソン・ウイリアムズ)

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