風立ちぬと
早朝のコーヒーを
目を細めながら
きみは
ふとつぶやいた
え? なんて云ったの?
ぼくが尋ねると
雪の庭に舞い上がる
数枚の枯葉を
黙って指さした
「風立ちぬ」って
もしかして堀辰雄?
ぼくは学生時代に
立原道造が好きだったけど
みんな夭逝だったよね
39才で死ぬって
今の時代じゃ
癌じゃなきゃ
ないよね?
死に急ぎかな?
でもわたしも
年をただ積み重ねるくらいなら
早く死んでも良いかな?
時間じゃないよね、やっぱり
目標があることなのよ
そうきみは
自分に語りかけるように
つぶやいていた
この激しく吹き抜ける
春風はきみだろうか
ぼくも一時期
中原中也とか、宮沢賢治だとか
その純粋な生き様を
その凝集的な死に
憧れた時期があった
宮沢賢治のように
自分の凝縮した
いのちの作品を
トランクひとつに詰め込んで
死にたかった
ぼくたちは
今変わろうとしている季節を
視覚的に確認しながら
僕たち自身も変わっていくことを
どこかで感じていた