夢発電所

21世紀の新型燃料では、夢や想像力、開発・企画力、抱腹絶倒力、人間関係力などは新たなエネルギー資源として無尽蔵です。

泣くということ

2011-09-15 06:04:29 | 創作(etude)
赤ちゃんが
泣いている
泣くということは
理由があるから
泣くのだ
言葉に代えて
泣いているのだ
頼れる人に
伝えるために
泣いているのだ
呼んでいるのだ
知ってほしいのだ
今の状況を
変えて欲しいので
泣き続けるのだ
空腹で
おしっこで濡れて
お腹が痛くて
おっぱいという
安心が欲しくて
発熱して
のどが乾いて


かつて
お前も
泣き続けた
新米の父と母は
何故お前が
泣くのか
わからずに
うろたえ
ミルクを作り
熱を測り
おむつをさぐり
抱っこをして
音楽を聞かせて
絵本を読んで
あらゆる
可能性を探るために
試みた
でも
お前の
泣き声は
夜明けまで続き
明け方の光に
包まれて
止んだ

いつからだろう
お前が
泣くのを
やめたのは
注射をされても
友達に叩かれても
噛みつかれても
お前は
驚いた表情は
見せるが
泣き声を
上げることが
なくなった
歌を忘れた
カナリアのように
お前の泣き声が
あの朝焼けの
中で消えた

あの
泣きつかれて
しゃくり上げるような
お前の
泣き声はもう
聞くことは
できないのだろうか
辛いことや
切ないことや
望んでも叶わない
数々の希望が
無言の
地平に
重たい雲のように
広がっている

ああ
あの小児科病棟の
病んだ子供たちでさえ
あんなに
自分を主張して
泣いているというのに
お前は
ベッドの上で
苦悶し
身体を
反転させ
苦しみの
分散を
図ろうとしている
父や母が
お前には
無力なのだろうか
その苦しみのためなら
どんな
拷問でも受けるものを

時々
深夜
苦しい夢をみる
お前が
声を取り戻して
泣き続ける
そういう夢だ
私は
どうすることもできずに
お前の泣き声を
拒もうとしている
ビートルズや
シルビー・バルタンの
賑やかな
歌声を武器に
ボリュームを上げても
ヘッドホンを
両耳に付けても
お前の声は
それを超えて
私の耳に
届いている

ふと気づけば
それは
儚い
夢であり
私は
罪を
感じて
体中汗ばんでいる
でも
確かに
あれは
お前の
泣き声だと
耳に張り付いた
お前の
声が
反響しているのだ
もう一度
聞きたくても
聞くことのできない
懐かしい
お前の
泣き声

秋空を
ハッチョウトンボが
連なって
風に乗るように
お前の
こころが
軽やかに
なってほしいと
空を
見上げては
溜息をつく
悲しい時は
泣いておくれ
お前の思いが
かなわないときは
その思いを
伝えて欲しい
それが
いまの
私たちの
願い