夢発電所

21世紀の新型燃料では、夢や想像力、開発・企画力、抱腹絶倒力、人間関係力などは新たなエネルギー資源として無尽蔵です。

祈り

2011-09-10 06:35:04 | 創作(etude)
いつもなら
にぎやかな
お前のはずが
今朝の
ベッドに
横たわって
その
眉間に
シワを寄せ
深く
落ち込んだ
両眼と
苦しげに
開かれた
唇は
乾いて
ひび割れ
陽気な
声すら
聞こえない

鼻から
差し込まれた
ビニールの
管は
お前の
胃袋や
腸管から
溜まっている
水を
抜くための
機械に
つながれ
規則的な
繰り返しの
音が
病室の壁に
跳ね返っている


お前の
細い腕に
突き刺さっている
細い針から
点滴が
ぽたぽたと
滴り
辛うじて
これで
お前の
日々の
いのちを
つないでいる

父も
母も
今は
為す術もなく
交わすべき
言葉も
いまは
湧きもせず
お前の
回復を
祈るしかない
日頃から
祈っていれば
こういう
困った時こそ
神様は
振り向いても
くれるだろうにと
そんな
おろかな
悔いを
かみしめている

今となれば
イレウスの
名前の
由来すら
知らない
自分の
不勉強は
たちまち
思いを
不安と
絶望の淵に
誘い込もうと
している

それにしても
このごろの
お前ときたら
どうだろう
わずか
ニヶ月前に
夜中から
吐き続け
ただ
お腹だけが
陸に上がった
ふぐのように
パンパンに
腫れ上がり
薄く開かれた
お前の目は
その淵すら
寝不足で
落ち込み
薄黒くなって
宙を
さまよっていた

これまでの
お前は
重たい
ハンディキャップを
感じさせることのない
陽気で
賑やかな
娘として
毎日
ピアノの
鍵盤を
言葉替わりに
表現して
家の中を
包んできたのだ

そんなお前が
どうして
再び
病室の
ベッドに
病臥しているのかが
いまだに
信じられない
病室の外に
コオロギたちの
鳴く音だけが
夏から
秋へと
移り変わる
この日の
事実を
伝えている