すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

胸くその悪い

2019-03-30 20:52:46 | 社会・現代
 ミシェル・ウエルベックの「服従」を読んだ。近年フランスでベスト・セラーを連発している超売れっ子の作家らしいが、何とも胸くその悪い小説だった。
 途中で結末が予想できてしまうのも面白くない。前に読んだピエール・ルメートルの「悲しみのイレーヌ」というのも、やはり大ベストセラーで、やはりものすごく胸くその悪い、しかも途中で結末が予想できてしまう小説だった。そっちは残虐シーンの連続するミステリーで、今回読んだのは一種の政治小説だからジャンルは全然違うが、
 ぼくのかつて愛した、カミユやサン=テグジュペリやロランやマルタン=デュ=ガールやヴァレリーのフランス文学、どうなっちゃったんだ?
 胸くその悪い小説を紹介するのも変なものだが、現代世界のこれからを考えるうえで、大変重要な示唆を含んだ小説だとは思う。
 ごく近未来の2022年のフランス大統領選挙で、極右の国民戦線とイスラム穏健派が決選投票を戦うことになる。それまで政権交代をしてきた二大政党、中道右派のUMPと社会党は、ファシズムよりはマシと、イスラムと協定を結ぶ。投票所が襲撃され、テロが発生し、選挙はやり直しになる…パリ第三大学(いわゆる、ソルボンヌ)の教授だった主人公は、パリから避難し、ほぼ2か月後に、混乱の収まった、そしてすっかり事態が変わったパリに戻る…ここまでで全体の約6割。あとのことはここでは書かない。
 現代の政治状況は世界の各地でどんどん悪くなっていると、多くの人が思っていることだろう。自国自民族利己主義が強まり、大国は帝国主義に走り、その国の中でも対立・分断が深まり、テロが横行し、宗教上の原理主義的傾向が強まり、20世紀が戦争の繰り返しの中で見出してきた普遍的な価値と思われていた民主主義や基本的人権が、目の前で、ぐらつき始めている。
 疑いようのないはずだったぼくらの基盤が失われつつある。あるいは、終末を迎えているのかもしれない。そのことへの不安が、どんどん広がっている。
 いったい、これからの世界はどうなってしまうのだろう? この小説は、それを考えるための(ひとつの)思考実験なのだ。ぼくには賛成しかねるが。
 いや、ウエルベックにこの小説を書かせたのはもっと単純に、イスラム教への警戒心と、インテリの精神的脆弱性と無節操に対する嫌悪感なのかも知れないのだが。
 これから世界は大混乱に突入する。自分も目をつむって突っ込むか、縮こまって耐えるか、背を向けるか?
 たぶんぼくは、目だけは開いて、でも傍観するのだろうな。
コメント
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