すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

「羊と鋼の森」

2018-06-12 14:07:12 | 音楽の楽しみ
 昨日、映画「羊と鋼の森」を見に行ってきた。小説の方は、二か月ほど前に読んでいた。音楽をテーマにした小説を読むのは好きだが、これは中でも、大変気持ちの良い小説だ。
 上映開始3日目だけれど、台風接近中の月曜日の午前の回だから空いているだろうと思って行った。半分くらいの入りで、良い席でゆったりと観ることができた。

 ところで、音楽をテーマにした映画は、ひとつだけ気を付けなければいけないことがある。去年だったか、杏が主演した「オケ老人」を見に行って痛感した。へたくそな集団ないし個人が努力のすえ上手になる、というストーリーのものは、初めのうち、ときにはクライマックスの直前まで延々と、音程の狂った気持ちの悪い演奏を聴かされる羽目になる。あれは、ストーリーの展開のためとはいえ、故意にああいう演奏をしているのだと思う。「もうやめてよね」という感じ。
 その点、昨日の映画は、初めから素晴らしくきれいな音が鳴っていて、嬉しかった。
 映画の中で弾かれるピアノ曲も、ラヴェルの「水の戯れ」とかドビュッシーの「月の光」とかベートーヴェンの「月光」とか、よく知られた名曲が使われていて、久しぶりに聴いて懐かしく、心に沁みた(原作の方では、曲名は示されていない)。
 そして何よりも、主人公が育った森の緑が、最高に美しかった。
 この音と自然の美しさだけでも至福の時で、何度も観たい感じ。

 これから見る人のために、内容にはあまり触れないでおくが、ストーリーも主人公をはじめとする登場人物たちの心理描写も原作に忠実に描かれていてよかった。

 主人公役の山崎賢人は、初めのモノローグと、森の中を歩いてゆくシーンの歩き方こそちょっと違和感を感じたものの、それからあとは、自分の才能に疑問を感じながら、困難にぶつかりながら、真摯にひたむきに乗り越えていく姿がさわやかでよかった。彼を指導する役の鈴木亮平も、「西郷どん」よりはるかに良かった(「西郷どん」は、初めのうちしか見てないが、頑張りすぎ、叫び過ぎ)。そして、主人公に調律師の道を歩ませるきっかけとなった大先輩役の三浦友和も良かった(百恵ちゃんは良い選択をした)。双子の姉妹役の二人も、それぞれの個性をくっきりと演じていてよかった。

 ぼくは、意地悪な嫌な性格の登場人物が出て来るドラマや映画や小説は、気分が悪くなるから好きではないが、この小説にも映画にもそういう人物が一人もいない。
 ぼくが特に感銘を受けたのは、南という青年の家の、長年打ち捨てられていたピアノを調律するシーンだ。ここは原作よりずっと膨らませていて、調律の終わったピアノを彼が弾きながら今はいない両親や愛犬のことを思い出すシーンでは、涙が出た。
 もう3回くらいは観に行きたい映画だ。皆さんもぜひ行ってください。

 …それにしても思う。音楽と自然という、人間を包んでくれる二つの美しいものに、曲がりなりにもうんと端っこの方でも、二つながら関心を持っているぼくは幸せだと。
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