米国の地理学者で明治期に日本を訪問したエリザ・シドモアは相当な買い物上手だったらしい。お得意の値引き方法について『シドモア日本紀行』に書いている。お店ではとにかく「高い」と日本語で訴えるのだそうだ▼売り手が交渉に乗ってきたなら、なおも「たくさん高い」「オソロシ高い」「途方モナシ、高い」。この妙な日本語がコツで「大げさで古典的表現の日本語を使うと、商人はびっくり仰天し、往々にして値段が下がる効果があります」。ほほ笑ましいやりとりやユーモアが値引きに効果を上げたのだろう▼ユーモアも人情のかけらもない悪質な値引きがあったものである。日産自動車。自動車部品を製造する下請け業者への代金を取り決めていた金額から一方的に引き下げて支払っていたそうだ。違法な減額は30社以上に対し計約30億円に上るという▼コストを抑え込む狙いがあったらしいが、たまらないのは一方的に代金を値切られた下請け業者である。取引を打ち切られる可能性を思えば、こんな因業なやり方にも文句は言いにくかったはずだ▼公正取引委員会が下請法違反(減額の禁止)にあたるとして再発防止を求める勧告を行う方針だそうだ▼日産はうまく値切ったつもりだったかもしれないが、結局、減額分を支払うはめに。おまけに会社の評判や信頼の値も下げた。買い物上手とは縁のない話である。
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