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今日の筆洗

2021年04月20日 | Weblog
 世界三大音楽コンクールの一つ、チャイコフスキー国際コンクールがモスクワで最初に開催されたのは一九五八年三月。ピアノ部門の優勝者をめぐりもめたそうだ▼当時は米ソ冷戦下。クレムリンは国家の威信を示すため、ソ連の若者を優勝させるよう審査員に求めていたが、米国から来たピアニストが圧倒的な演奏をした。ヴァン・クライバーンである。困った審査委員長は当時のフルシチョフ首相に相談する。フルシチョフは言ったそうだ。「そいつが一番うまかったのか。それなら、そいつにやれ」▼出場者を正当に評価するのは当然のことだが、敵対する米国の演奏者を優勝させるのはおもしろくなかっただろう。これもまた、とりわけ中国にはがまんのいることだったか。米国と中国が気候問題で協力して対処する方針を確認した▼両国が発表した声明の内容には決して満足できない。温室効果ガスの排出削減に向けて両国が取り組む具体的な内容も数値目標もない▼それでも安保や経済などで「新冷戦」ともいえる対立を続ける両国である。一連の対立は対立として脇に置き、気候変動問題については協力していく姿勢を見せたことにひとまずホッとする▼互いに腹を立てようとそれはそれ、これはこれで、この問題での協調を続けていただかなければ世界が困る。なんといっても排出量トップの中国と二位の米国である。

 


今日の筆洗

2021年04月19日 | Weblog

 演出家の蜷川幸雄さんといえば、稽古中の灰皿である。気に入らないと、役者に灰皿を投げる。靴を投げる。怒っているようで、実は役者に当たらぬように投げていたそうだ。野球部出身でぶつけない自信があった▼もう一つ、守っていたことがある。戯曲には筆を入れない。「ぼくらが非情の大河をくだる時」などの劇作家、清水邦夫さんが亡くなった。八十四歳。蜷川さんが戯曲を直さないと決めたのは、タッグを組んだ清水さんとの出来事のせいらしい▼「真情あふるる軽薄さ」の時だから一九六九年ごろか。台本を直そうと二人でホテルに泊まり込んだ。夜中に蜷川さんが目を覚ますと大きな音がする▼「ダメだ、ダメだ、ダメだ」。清水さんが部屋の中を走り回っていた。劇作家は言葉を生み出すためにこれほどまでに苦悩しているのか。以来、台本に手を入れまいと決めた▼「鴉(からす)よ、おれたちは弾丸(たま)をこめる」「泣かないのか?泣かないのか一九七三年のために?」。読み返し、清水さんの「ダメだ、ダメだ」で練り込まれたせりふに圧倒される。七〇年安保と挫折。当時の新宿の、日本の若者の熱と痛みがこれでもかと閉じ込められ、臭いまで放っている▼コロナ禍で劇場公演のフライヤー(ちらし)も大幅に減ってしまった。小劇場の若者たちは今どうしているのだろう。演劇の危機の時代にその人は去った。寂しい。


東京新聞 今日の社説

2021年04月18日 | Weblog
 日米同盟の強固さを中国に誇示する目的は果たした。会談した菅義偉首相とバイデン大統領だ。ただし、米中の狭間(はざま)にある日本は、米国一辺倒というわけにはいかない。バランス感覚が必要である。
 バイデン氏が大統領就任後、初めて対面する外国首脳に菅氏を選んだのは、中国との「新冷戦」に当たって日本の協力に大きな期待をかけている表れだ。
 折しも米国は中国をにらんで外交攻勢をかけているさなかの首脳会談である。公表されていないものの、踏み込んだ注文や提案が米側からあったとみるのが自然だろう。
 バイデン政権が重視する人権問題では、両首脳は香港と新疆ウイグル自治区の人権状況に「深刻な懸念」を共有した。ただ、ウイグル問題で対中制裁に踏み切った欧米とは日本は一線を画している。
 菅氏は会談後の共同会見で「日本の取り組みを大統領に説明し、理解を得られた」と述べたが、はたしてこれですむかどうか。欧米からの同調圧力と同時に、中国からも圧力が強まることが予想され、日本は板挟みだ。
 バイデン氏は第五世代(5G)移動通信システムの普及や、半導体のサプライチェーン(部品の調達・供給網)構築で日本と協力を進める、と共同会見で表明した。
 米国は先端技術の保護のため中国への輸出規制を強めるとともに、ハイテク製品の原料となるレアアース(希土類)などの供給網を見直し「脱中国化」を図る方針だ。日本はじめ同盟国に同調を求めている。
 中国と経済的な結びつきの強い日本にとってこの中国締め出し政策は厳しい。菅氏は日本の立場を率直に説明したのだろうか。会談は、両首脳が対中政策を綿密にすり合わせる機会になったはずだ。
 地理的にも歴史的にも中国とつながりの深い日本は、米中との間合いを測った外交が必要である。
 米中は互いが国内世論を意識して激しい言葉をぶつけ合っている。これでは外交上の選択肢が狭まり、衝突軌道を突き進むだけではないか。強い危惧を覚える。求められるのは自制と理性である。
 加えてコミュニケーションも不可欠だ。日米両政府が出した共同声明も、中国との「率直な対話」の重要性を認識し、中国に懸念を直接伝えていくことをうたった。
 米中が意思疎通を積み重ねるような環境づくりに日本が貢献できる余地はあるはずだ。

 


今日の筆洗

2021年04月18日 | Weblog
 半」という漢字の成り立ちには、ウシが関係しているそうだ。なるほど、二本の角がある「半」の方が「牛」よりウシっぽい▼そこに糸ヘンを加えると「絆」になる。友情、連携、結束。絆と聞けば人と人とが手を組み、助け合うという前向きな印象を抱くが、元はウシなどの家畜を木に縛り付けておく綱だったらしい▼「絆」はさらに深まったか。菅首相とバイデン大統領による初の日米首脳会談である。インド太平洋地域の平和と安定のため同盟関係を一層強固にする考えで両首脳は合意した▼念頭にあるのは無論、海洋進出を強める中国である。日米の絆によって中国に対抗していく狙いだろう。中国の嫌がる台湾問題が日米首脳間の共同文書に書き込まれるのは一九六九年の佐藤栄作、ニクソン会談以来というから大きな転換である▼問題は日米の絆で静かにさせようとする中国というウシだろう。おとなしくなるとは思えず、日米のくびきに身をよじり、さらなる動きを強めないかが心配である。中国の挑発的な動きや人権侵害は看過できないが、いまや中国との経済的結び付きの強いわが国でもある▼日米の「絆」が縛ろうとするのは中国ばかりではない。日本も「絆」で米国という牧場につながれたのではないか。大統領が首相を「ヨシ」と呼んでいたが、皮肉屋の耳には、「ウシ」と聞こえてしかたがないのである。

 


今日の筆洗

2021年04月17日 | Weblog
 天才発明家でもある米軍需企業の若い社長は、アフガニスタンで武装勢力の襲撃にあい、大けがを負う。ショックであったのは、使われた兵器が自社製だったことだった。大ヒットしたハリウッドのヒーロー映画『アイアンマン』は、米国のアフガンでの戦いを下敷きにしている▼敵も味方も自分の武器で傷ついていることを知った社長は「目を開かされた」と、兵器製造から撤退を誓うことになる。人々の恐怖を終わらせようと独自に戦うヒーローの誕生へと物語はつながる。単純な勧善懲悪とはやや異なる筋立てに、泥沼化や厭戦(えんせん)気分の広がりが語られた難しい戦争の一面を思わなくもない▼米国史上最長とされるその戦争から、米軍がついに撤退するという。バイデン大統領は九月十一日までに、アフガニスタンに駐留する米軍を完全に撤退させると正式に表明した▼米側にも二千人以上の死者を出し、二十年近く続いた。大義が疑われることもあった。輝かしい勝利宣言で締めくくられることもなく終わりそうな戦争である▼心配は残る。平和が見通し難い。反政府武装勢力のタリバンは力を持っており、米軍が完全に撤退すれば、また内乱が拡大するおそれがある。せっかく向上してきた女性の地位が再び失われてしまわないかも気がかりだ▼和平を残せるか。ヒーローでも難しいだろうが、米国の引き方が問われるだろう。

 


今日の筆洗

2021年04月16日 | Weblog
 電気で動くかつお節けずり器をつくれないか。発案者の岩下文雄社長は試作を命じた。機械式のハエたたきも思いついた。どちらも技術陣が見事につくり上げてきた。製造コストが五万円、八万円をそれぞれ超え、商品にはならなかったそうだ。昭和三十年代だろう。竹間茂樹著『東芝コンツェルン』にある東芝のこぼれ話である▼会長の石坂泰三は、家庭電気器具のブームを予見し、新製品開発の号令を発していたそうだ。東芝はこの当時、家電などで日本初となる機器を次々に世に送り出している。経営陣の胸中まで、物づくりへの意欲が占めていた熱い時代だったはずだ▼「物言う株主」の厳しい要求や下からの不満の声、ライバル勢力との争い…。現代の東芝経営陣の胸中を占めるものを思えば、古き良き時代の経営者たちも同情したか。社長が辞任する事態にまで至った東芝の混乱である▼危機が終わらない。不正会計の発覚に始まり、原子力事業をめぐる巨額損失、債務超過などときて、物言う株主らの力を得ての再建の途上、今回の内紛だ▼この後、買収合戦が始まりそうだという。終幕の見えない舞台の何幕目かを見ているようである▼「潮満ちわたれ/科学の恵み/わが生む潮/都会に村に」(『東芝百年史』)と社歌にある。科学や技術の光で世の隅々を照らす名門企業のイメージ。また前面に出るのはいつか。

 


今日の筆洗

2021年04月15日 | Weblog

 星新一さんの作品には未来を予言したかのような内容が少なくない。この予想もまた現実になるか。「余暇の芸術」(『未来いそっぷ』収録)というショートショート。「技術革新がめざましく進んだおかげで、労働時間が短縮された。いまや週に休日が三日」…。週休二日ですらなかった、一九七一年に「週休三日」の世界を描いている▼お話では休日が増えた結果、誰もが美術や詩や文学など趣味にいそしむようになる。ここまではいいのだが、皆、その成果を見せたくて、趣味の発表会や展覧会をひんぱんに開く。まわりの人間は付き合いで見に行かざるを得ず、「休日の全部が、それらを回ることでつぶされてしまう」。休みが休みにならぬとは皮肉が効いている▼まさか、そんなことにはなるまいが、希望に応じて週休三日を選べる「選択的週休三日制」の普及に向けた議論を政府が始めたそうだ▼単純に休みが増えれば育児や介護などとの両立もしやすい。土日に加え、水曜日を休みにすれば、憂鬱(ゆううつ)な月曜日の朝も「明日もう一日行けば、休みだ」と思えるかと気の早いことを考えてみる▼問題は給料で、週休三日を選んだ場合の給料が減る仕組みでは普及は望めず、このあたりの研究が必要だろう▼給料が減った分、増えた休日はアルバイトでへとへとに…。そんなオチなら星さんの作品よりも皮肉が効きすぎている。


今日の筆洗

2021年04月13日 | Weblog
「THE TWELFTH OF NEVER」。米歌手ジョニー・マティスの甘い歌声が懐かしい一九五七年のヒット曲だが、曲名が分かりにくい。いったい「やって来ない月の十二日」とは何か▼決して訪れない日という意味らしい。歌詞に「やって来ない月の十二日まで君を愛し続ける」とあるが、つまりは永久に愛するということになる▼その瞬間、日付を確認する。現地は十一日。日本では十二日早朝。松山英樹選手がマスターズで優勝した。日本人がマスターズを制する。その日は決して「やって来ない月の十二日」ではなかった。松山選手の安定したショットと我慢強さがこの日を現実のものとしたのである▼一九三六年、日本人としてマスターズに初出場した戸田藤一郎選手はこう語ったそうだ。「自分にもう少し背があったら」。そこから八十余年、何人もの日本選手が高い山に挑み、夢破れた。それでも往年の選手たちは道標を少しずつ残していったのだろう。その道標が日本のゴルフを進化させ、マスターズという頂上を征服した。日本ゴルフ全体の勝利でもある▼コロナ禍の影響でアジア出身者への差別が続く米国である。この優勝でアジア出身者への見方が少しでも変わることを願う▼次のメジャーは五月の全米プロ選手権。願わくば圧勝で。十五番ホールで池に入れた時はこちらが気を失うかと思った。JOHNNY MATHIS ~ The Twelfth Of Never ~.wmv
松山英樹選手 マスターズ優勝 最終日ハイライト Masters Tournament 2021  Final Round HIGHLIGHT

 


東京新聞 社説

2021年04月10日 | Weblog
東京電力福島第一原発事故から十年を機に、ドイツ政府は脱原発を完全に達成するための行動指針を公表した。自国の原発閉鎖後には世界での脱原発を目指す、野心的な目標として評価したい。
 当初、原発推進政策だったメルケル政権が二〇一一年、脱原発に転換したのは、福島での原発事故の惨状だった。当時、十七基あった原発も現在六基にまで減り、来年末までに全て閉鎖される。
 十二項目の指針は脱原発は来年末では終わらないと強調。一九八六年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故を例に、事故は遠く離れた国々にも影響を及ぼすとし、安全の確保には欧州の隣国はもちろん、国際レベルで最大限の力を注ぐ必要性を指摘している。
 欧州連合(EU)の現状を見ると、フランスは電力の約七割を原発に依存し、東欧諸国も原発の新増設を検討するなど、脱原発では足並みがそろっていない。
 陸続きの欧州では国境を越えた電力取引も常態化している。ドイツは電力輸出超過だが、フランスなどから原発由来の電力を輸入しているのも、EUが電力供給の安定を図るために単一電力市場構想を推進し、域内の電力取引を盛んにしている事情がある。
 このため指針は、エネルギー政策を巡る各国の主権を尊重した上で、原発推進国に脱原発への協力を促す内容となっており、国際協力の具体的な第一歩として、原発を抱える周辺五カ国に、核の安全性について意見交換する委員会の設置を呼び掛けている。
 脱原発に逆風となっているのが温暖化対策だ。
 EUは二〇五〇年までに域内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げている。目標達成のために原発の活用を表明している加盟国もある。菅義偉首相が同様の目標を打ち出した日本政府も、原発の活用をうたっている。
 ドイツは指針で原発による温暖化対策に反対し、再生可能エネルギーの活用を訴える。原発は常にリスクを伴う上に、核廃棄物の最終処分場問題はいまだ解決せず、将来世代に負担を残すという理由だ。次世代型原発「小型モジュール炉」についても、核のリスクは残るとして「将来への誤った道」だと指摘している。
 原発で事故が起きれば、被害が極めて広範囲に広がることは、チェルノブイリや福島の事故で経験済みだ。脱原発は急務である。国際協力を主導しようというドイツの挑戦を後押ししたい。

 


今日の筆洗

2021年04月10日 | Weblog

 お金を稼いだ人の心理をさぐる実験があるそうだ。使うのは駒を進めながら財産を増やすゲーム。コインを投げて選ばれた金持ち役は、貧乏人役よりはるかに好条件でプレーできる。一貫した傾向が表れるそうだ。金持ちは声が大きくなり、自分の成功を誇りたがる。単なるツキのおかげなのに、勝因は自分の力だと答えるそうである▼人の心は金を稼いだ体験を自らの優秀さと解釈するようだ。実験を紹介しているのは、世界の格差社会の構造などを説いて警鐘をならした仏経済学者ピケティ氏のベストセラーの映画化作品『21世紀の資本』である▼富める人はさらに富み、貧しさを抜け出すのは困難に。そんな世界の格差拡大に映画は、さまざまな説明を加えるが、稼いだ人の心理も関係あるようだ▼米誌フォーブスが恒例の長者番付を公表した。新型コロナウイルス流行が世界にどんな影響を与えるか、興味を持ってみたが、富裕層の資産は膨らんでいた。資産十億ドル以上の人は前年より六百人以上増えた。急増という▼十数時間に一人、このレベルの富豪が生まれた計算だ。各国のコロナ対策の金融緩和策が影響したらしい。欧米の大富豪には慈善家も多いが、すでに富んでいる人の資産は一段と拡大した▼コロナ解雇のニュースをわが国に限らず聞く。コロナ禍は格差をさらに拡大させているようだ。富豪の心理も気になる。