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今日の筆洗

2021年04月27日 | Weblog

 映画館では、耳をそばだてることにしている。上映中ではなく、終映後のロビーで聞き耳を立てる。悪趣味は分かっているが、同じ映画を見た他の人がどんな感想を持ったか知りたい▼先日は四十代ぐらいの女性お二人が今終わった映画について語っていた。「もう少し年を取ったら、こんな生活もいいかも」。別の女性は「絶対にいや!」。映画は今年の米アカデミー賞作品賞に選ばれた「ノマドランド」。独特な映像美とそこに巧みに織り込まれた米国の「今」。順当な受賞だろう▼経済的な事情で家を手放し、車で旅をしながら生活する六十代女性の話である。米国にはこうした暮らしをする人が増えていると聞く。仕事は移動先で見つける▼頼りない浮草ぐらしをつい想像してしまうが、そうではなく、主人公はその生活の中から前向きに自然や国を見つめ直そうとしている。ノマド同士の助け合いもある。その暮らしにロビーの二人の女性の意見が分かれたのはもっともである▼「ホームレスじゃない。ハウスレスなの」。そんな主人公のせりふがあった。「ハウス」という建物はないが、「ホーム」という「人間的な営み」はあると言いたいのだろう▼車上生活には苦労もあれど、その旅と「ハウス」での決まり切った生活とどちらが人間的か。息苦しいコロナ時代だから、なおさら共感が広がったところもあるのだろう。