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今日の筆洗

2021年04月09日 | Weblog

 体格は平凡な日本人と大差ない。大学で映画を学び、シナリオの執筆が趣味という。「知識人」も思わせる若者が、リングではただただ強い。作家の寺山修司は、キックボクサーの沢村忠さんを<力なきサラリーマンたちの、ひそかな願望を充(み)たす代理人>と例えている(『勝者には何もやるな』)▼世の中を沸かせたのは昭和四十年代、経済の躍進もあった頃である。米国の巨漢をなぎ倒し、人々の留飲を下げさせたプロレスラーに続くヒーローを時代が求めていたのだろう。「キックの鬼」はひたむきに戦い、強かった▼右肩上がりの時代を、鬼のような働きで支えてきた日本人の心情に、訴えるものがあったのかもしれない▼先週、届いた訃報に、長いこと忘れていた無敵ぶりを、時代の空気とともに思い出した方もいるだろう。真空飛び膝蹴りのまねをした当時の子どもたちの記憶もよみがえったか▼七十八歳だったという。人気は巨人の「O・N」をしのぐこともあった。完全燃焼したと、現役十年あまりでリングを去っている。表舞台からは遠ざかり、死亡説も流れた▼ノンフィクション作家、織田淳太郎さんの著書にくわしいが、自動車エンジニアの道に転身している。短い時代にその姿を強く深く刻みこんだ人だ。「あの沢村さんじゃないですか」と尋ねられると「よくそう言われるんですよ」と答えていたという。