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今日の筆洗

2019年10月24日 | Weblog

イソップによればアリはもともと人間だったらしい。この人間、農業に励むのはよいが、自分の収穫だけでは満足できず、他人のものまでくすね続ける。神はあまりの貪欲さに腹を立て、アリの姿に変えてしまったという。「だから今も畠(はたけ)を歩きまわって、他人の小麦や大麦を集めては、自分のために貯(たくわ)えている」(『イソップ寓話集』岩波文庫)▼有名な「アリとキリギリス」では冬に備え、夏の間も働くアリの勤勉さをほめていたが、こっちの話はアリにずいぶんと手厳しい▼南米産の猛毒を持つこのアリに対してもわが国にまで「領土」を広げようとする貪欲さを警戒したい。ヒアリである▼最近の東京港青海ふ頭での調査によって巣から五十匹以上の女王アリが確認されている。一部の女王アリは既に別の場所へと飛び立った可能性もあるという▼関係閣僚会議でヒアリの定着阻止に向けて、取り組みを強化する方針を確認したが、ゆめゆめ油断はできぬ。毒針で刺されればアナフィラキシーショックを引き起こす危険がある。それ以上に怖いのは農作物などへの被害で一九三〇年代に定着を許した米国では現在、年間六十億ドルを超える被害があると聞く。貪欲なのである▼カタカナだとさほど怖くないが、漢字で書けば、刺された痛みの強さから「火蟻」。油断すれば、燃え広がる怖い火と心得て、一刻も早く消火したい。

 
 

 


今日の筆洗

2019年10月23日 | Weblog

 平成の即位の礼を報じた昔の新聞をめくってみる。「祝福の人波」や「波うつ小旗」といった見出しが並んでいる。好天の下、十万人以上が繰り出したパレードのにぎわいがあった。来日した各国の要人の中には、日本の経済援助を求めている人が多いと伝える記事もある。バブル崩壊はまだ問題になっておらず、平成の大災害も起きていないころである▼令和の即位の礼を昨日迎えた。テレビで見るおごそかな儀式に引き込まれた向きも多いはずだ。一方で、二十九年前のあの華やかなムードは乏しかったように思える。同じ日にパレードがなかったからだろう。台風19号の被災者や復旧の活動に、配慮しての延期である▼赤坂御用地に古い道が通っていたと知って感動を覚えた。少年時代の天皇陛下の逸話がある。道への関心はやがて水上の道の研究へとつながる。探究はさらに、運命づけられたように水害など水問題へと広がった▼「最も大きく影響を受けるのは…社会的に弱い立場にある人々です」。講演で水害の被災者への思いを繰り返されている。パレード延期は自然の流れだろう▼昨日のお言葉に「国民に寄り添いながら」とある。台風の被災者を思わせ、弱い立場の人を励ましたいという表明にも思える▼祝福の人波がなかったことで、かえって令和の天皇としての決意が記憶に残る。そんな日になったかもしれない。

 
 
 

今日の筆洗

2019年10月21日 | Weblog

 米ソ冷戦真っただ中の一九八五年、首脳会談で、レーガン米大統領がソ連最高指導者のゴルバチョフ氏を前に切り出した。「米国が突然、宇宙人に襲撃されたら、助けてくれますか」。ゴルビー氏は笑顔を浮かべて応じたと報じられている▼冷戦はもちろんまったく別の理由で終わることになるが、核戦争の恐怖というとびきりの重荷を背負うレーガン氏には、宇宙人のアイデアが魅力的に映っていたようだ。母国でも同じ話を繰り返している▼侵略はともかく、地球以外の星に生命体が存在しているという科学的成果への期待がいま高まっているそうだ。その第一歩となる大発見をした二人が先日発表されたノーベル物理学賞の今年の受賞者に選ばれた▼スイスの二人は九五年、不可能ともされていた太陽系外の惑星の発見に成功した。これを機に惑星発見の時代の幕が開いたそうだ。これまでに四千以上が見つかり、さらに増えるという▼恒星に遠すぎず近すぎず、水をはじめ生命に不可欠な物質がある星の割り出しが、生命の跡を探す技術の確立とともに進んでいるそうだ▼何かが見つかった時、人間の争いは小さく見えるだろうか。惑星の探索が、人々をいがみあいから解放することにつながるという期待が科学者にもあるようだ(河原創著『系外惑星探査』)。冷戦は終わったけれど対立だらけの世界を見渡して共感する。