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今日の筆洗

2020年08月09日 | Weblog

 アリの群れを見つけた。ドブネズミが走っている。爆風で吹き飛ばされたはずの麦が、いたるところに芽吹き始めていた。長崎に原爆が投下されてから数週間後、生物の調査を始めたのは永井隆博士である▼<小動物がこんなふうに生息できるのだから、人類の生息はできる>。希望を見つけたような描写が、『長崎の鐘』の終わりのほうにある。被爆後、体調が悪化するなかで、博士が著述し、いまなお人々に読み継がれる名著である▼調査は、焦土をめぐる<七十五年生息不可能説>の真偽を確かめるためであったという。七十五年は草木も生えない。原爆開発に携わった米国の科学者が発端という言説が長崎にも流布していた▼生命は失われていなかったと安堵(あんど)する博士の姿。焦土がもう人の住めない場所になってしまったのではないかという恐怖と悲嘆が、どれほど現実的であったかもあらわしているだろう▼原子野と言われた地はここまで繁栄を取り戻しましたと、心の中で報告しようか。あの恐怖と悲嘆を味わうおそれが、完全に世界から消えたわけではないことも付け加えないといけないだろう。広島に続いて原爆投下から七十五年が長崎に訪れた。きょう、長崎原爆の日▼<この浦上をして世界最後の原子野たらしめたまえ>。『長崎の鐘』の結びにある博士の言葉を携えたい。新たな四半世紀の始まりでもあろう。


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