実業家の渋沢栄一が著書『論語と算盤(そろばん)』で、「常識」について説いている。常識とは「智(ち)、情、意」の配合という▼物事の善悪を判断する知恵、他人の迷惑や痛みを思う情、それに強い意志。この三つをバランスよく配合することで社会を生きるための「常識」が生まれる▼残念ながら、20代の若い銀行員は郷土の偉人、渋沢さんの本は読んでいなかったか。新1万円札に描かれた渋沢さんの出身地、埼玉県深谷市にある群馬銀行の支店での銀行員による詐欺行為である▼「新紙幣への両替目標がある。両替を無料で受け付ける」。そう触れ込み、顧客から現金5535万円をだまし取っていた。大半はギャンブルに使ってしまったという。銀行員が詐欺とは油断のできない時代である▼渋沢さんの「常識」になぞらえれば善、悪を見極める「智」の足らない話だろう。渋沢さんを敬愛する土地柄ならば新1万円の両替に協力したいという人は集めやすかっただろうが、それを利用するとは「情」にも欠ける。だまし取ったお金でオンラインのカジノや野球賭博。悲しいことに「意」の方はギャンブルにからめとられてしまったか▼常識外れの銀行員の詐欺に銀行の方は頭を抱えていることだろう。「GB(グンマ・バンク)」。ロゴマークを見て、複雑な気分になる。皮肉なことにGAMBLE(ギャンブル)と読めてしかたがない。