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今日の筆洗

2020年09月07日 | Weblog

 新美南吉の童話『花のき村と盗人たち』で盗賊のかしらが悪い心を改めたきっかけは子どもが仔牛(こうし)を預けたことだった▼道を歩けば窓をしめられ、話しかければ、そっぽを向かれる。猿回しの猿に柿の実をやったときは、一口も食べずに地べたに捨てられた。嫌われ、冷たい目で見られる自分なのに、この子どもは牛を預けるほど信用してくれる。「いや、はや、これはどうしたことだい、わしが涙を流すなんて」。かしらはやがて過去のすべての悪事を白状する▼子どものときに読んだ物語とはもちろんちがう。その容疑者が心を変えて、出頭してきたのは子どもが預けた牛のせいでも人の情のせいでもなく、どうやら新型コロナウイルスの影響らしい。殺人容疑などで国際手配されていた男が潜伏していた南アフリカの日本大使館に出頭し、その後逮捕された▼感染者六十万人を超える同国のコロナ禍は深刻で、容疑者も仕事を失い、生活に困って日本に帰りたいと大使館に現れたそうだ▼身の上に同情する気はないが、「望郷」という人らしい感情を取り戻し、約十七年の逃亡生活に終止符を打つ気になったか▼逮捕時の調べに対し、容疑を認めていると聞く。コロナ逃れの出頭かもしれないが、今は己の罪と向き合おうとしていると信じたい。それにしても、容疑者の出頭を促したお手柄はコロナだったとは皮肉な話である。


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