<煙を水に横たえて/わたる浜名の橋の上/たもと涼しく吹く風に/夏ものこらずなりにけり>。1900(明治33)年発表の「鉄道唱歌」の28番。浜松駅を過ぎ、豊橋駅へ向かうところだろう▼浜名湖に架かる鉄道橋の上を走る汽車。冷房のない当時の車内でも浜名湖の上を通るときはいくらかの涼しさを感じたか▼東海道新幹線は22日、保守用車両の脱線事故の影響で浜松-名古屋間が上下線とも運転を見合わせるなど大混乱した。運休となっていた区間にあの歌詞が浮かんだが、<夏ものこらずなりにけり>どころか、猛暑の中の足止めに利用客はさぞお疲れになったことだろう▼運休は上下線で計328本。約25万人に影響が出た。旅行に仕事。夏休みを取って故郷の両親に会いに出かけた人もいるか。誰もが目的を持ってどこかへ向かおうとしていた。新幹線は定刻通りに動くもの。その当たり前が崩れてしまえば、生活も楽しみも成り立たない▼保守用車両に別の保守用車両が衝突し、脱線につながったが、衝突の原因がまだ、分からない。新幹線の安全な運行に日夜、取り組む人々にも今回の事故は衝撃に違いない。原因を究明し、再発を防ぎたい。「世界一安全」とされた新幹線だが、このところ事故も目立つ▼<神戸のやどに身を置くも/人に翼の汽車の恩>。再び「鉄道唱歌」の神戸駅。人の大切な翼を守りたい。