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今日の筆洗

2024年07月12日 | Weblog
医療法人・徳洲会の理事長室の応接ソファ前のテーブルに、理事長側からだけ見えるような小さな字でこう書いてあったという。「チャックを閉めろ」。創設者徳田虎雄さんが部屋の主(あるじ)だった時の話▼開けたまま客をよく迎えた証左でいかにも他人の視線を気にせぬ人らしい。実像を追ったジャーナリスト青木理さんの著書から引いた▼鹿児島・徳之島出身で「命だけは平等だ」と離島医療に力を入れる徳洲会を率い、衆院議員も務めた徳田さんが亡くなった。体の自由を失う筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症して久しいが、毀誉褒貶(きよほうへん)相半ばした▼「年中無休。24時間オープン」「患者からの贈り物はお断り」と掲げる病院を各地に建設。患者を奪われる医師会を敵に回した。徳之島を含む奄美群島が選挙区。衆院選や地方選での買収合戦は有名だ。政治家になるのも理想の医療実現のため。金をばらまき、系列病院の職員を動員した。逮捕間近の仲間が急きょ入院し警察を怒らせたこともあった▼貧農の長男。小学生の時に3歳の弟が体調を崩し、夜道を走って往診を頼んだがすぐ来てもらえず、死なせた怒りが離島医療を志した原点という。反骨の人は純粋で、強引で、汚れてもいた▼「何もかも巻き込んでいく台風」と呼んだのは生前に親交があった作家の城山三郎さんという。過ぎ去った後の喪失感に襲われる人もいよう。