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今日の筆洗

2022年08月23日 | Weblog
岡本綺堂の「能因法師」は平安期の歌人のある一日を描いた戯曲で少々コントっぽい▼<都をば霞(かすみ)と共に立ちしかど秋風ぞ吹く白河の関>。京をたったのは春霞のころだったが、今や白河の関(福島県白河市)では秋風が吹いている。今も有名な歌だが、能因さんがこの歌を思いついたのは白河の関ではなく京の家。この事実を隠すため、能因は奥州に旅立ったふりをして、自宅に閉じこもる。あとで旅から帰ったと言って歌を発表すればいい。そういう作戦である。そんなある日友人に見つかって…▼能因さんの旅が本当だったかどうかはともかく紛れもない「白河の関越え」に東北は歓喜にわいていることだろう。夏の高校野球決勝戦は宮城の仙台育英が勝利した。春の大会を含め東北勢の甲子園制覇はこれが初。大旗がみちのくの地に入る▼一九一五年の第一回大会の決勝戦で秋田中が敗れて以来、東北勢が何度も挑んでははね返されてきた甲子園優勝という関所。春霞が秋風となる期間どころか百年を超える苦労の長旅であった▼粒ぞろいの投手陣と足をからめた打撃が関所を越える通行手形となったか。実に強かった▼真っ黒に日焼けした選手ひとりひとりの顔がまぶしい。戯曲で能因は旅をしたふりをするため毎日、窓から顔を出してわざと日焼けしたが、選手の日焼けは無論、本物の努力と鍛錬の色である。おめでとう。