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今日の筆洗

2022年08月16日 | Weblog
真夏の日差しに百日紅(さるすべり)の赤が映える季節となった。おサルさんが本当に足を滑らせるのかは知らないが、すべすべとした木全体が炎暑の中で赤く燃えるように咲いている▼初夏から秋までの長い期間、咲き続けるから百日紅。<日の暑さ死臭に満てる百日紅>原民喜。広島に原爆投下された直後の記憶だろう。花が咲いている期間が戦争の鎮魂の季節に重なることもあって、百日紅に戦争の苦い記憶を重ねた句は少なくない▼終戦から七十七年。当時二十歳だった人ならば九十七歳。当たり前の足し算だが、戦争の現実を味わった人も年を追うごとに減っていく。戦争のむごさを語る声、戦争の悲しみを語る声。百日紅の赤の痛みを訴える声がいよいよ、か細くなる▼痛みの言葉と悲しみの記憶が失われ、日本はいつしか戦争の痛みと絶対に繰り返してはなるまいという誓いまでも忘れていくことになるのか。それがもっともおそろしい▼本物の戦争を見た人が減っていくのならば次の世代が語り継いでいくしかあるまい。戦争体験者から聞いた言葉を伝えていく。体験の生々しさを伝えきることは難しいかもしれぬ。それでもいくばくかの悲しみと怒りは必ず生き残る▼百日紅の花言葉は「雄弁」だそうだ。<散れば咲き咲けば散りして百日紅>は江戸期の加賀千代女。散れば次の花を咲かせ、語り継ぎたい。たとえ雄弁ならずとも。