昔話に登場するキツネといえば、化けて人をだまし、悪さをするものが多いか。石川県能登地方に伝わるキツネは賢い上に人にやさしい。「狐女房」という。柳田国男の『日本の昔話』にあった▼このキツネ、稲が実るころになると田にやって来て、不思議な呪文を唱える。すると、稲の中に少しも実が入らない。実のない稲を見た役人が気の毒がって年貢を許してくれるのだが、この稲を家の中に持ち込むと、どこの家よりもよく実った稲に変わる。おかげで一家は豊かになった。呪文は「穂に出(い)いでつつぱらめ」▼何の意味か分からないが、かの地を守ってくれる地震よけのおまじないの代わりにはならないか。能登半島の石川県珠洲市で続く大きな地震が心配である▼十九日午後の地震が震度6弱。二十日午前の地震は震度5強。幸い、津波は来なかったが、最初の地震の後片付けに追われているところにまた地震とあっては現地は身も心もクタクタだろう▼「物音が聞こえただけでも怖い」。夕刊に住民の言葉が出ていたが、大きな揺れが立て続けに起きてはそんな心地になるのも無理はない。古い家屋などは目に見えぬダメージの方も心配である▼残念ながら、同程度の規模の地震が再び起こる可能性は否定できず、今後、一週間程度は緊張感を持って過ごす必要があるそうだ。無慈悲な揺れが収まるのを祈るばかりである。