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今日の筆洗

2022年02月08日 | Weblog
岩手県北上山地方には「アンモ」と呼ばれる妖怪、魔物の言い伝えがある▼この魔物、囲炉裏(いろり)の火に長く当たっているような怠け者の子どもには罰を与えるというから秋田のナマハゲに似ているが、最大の特徴は飛行術を身に付けていることだ。正月十五日に太平洋方面から飛来し、家々を回るという。病弱な子がアンモを拝むと治るというから優しい魔物である▼「僕が魔物でした」。北京冬季五輪のスキージャンプ男子個人ノーマルヒルで金メダルを獲得した小林陵侑選手。五輪に棲(す)み、有力選手の行く手を阻む「魔物」について聞かれ、そう答えたそうだ。印象に残る言葉と、美しいV字で夜空を飛んでいく岩手出身の名ジャンパーの姿にアンモを重ねたくなる▼五輪に棲むという「魔物」の正体は選手にのしかかる緊張や焦りなのだろう。「メダル確実」。そう言われるほどに魔物は巨大化し襲いかかってくる▼アンモが怠惰を憎んだようにこの選手も厳しい練習と戦略によって自らが魔物となることで五輪の魔物をねじ伏せたのだろう。「すでに良いイメージができていた」と試合前の試技を回避するなど的確な状況判断も魔物たるゆえんか▼日本勢によるノーマルヒルでの金メダルは一九七二年の笠谷幸生さん以来。五十年前、八歳だった身は札幌五輪での雄姿を今も覚えている。今の子どもたちもアンモの飛行を忘れまい。