イタリアの哲学者、作家ウンベルト・エーコさん(84)の名前を聞いてちょっと身構える方もいらっしゃるかもしれない。小説『薔薇(ばら)の名前』。その難解さにたじろいだ方もいるか▼邦訳が出たのは一九九〇年。もうそんな前か。とっつきにくい上下二冊がよく売れた。当時の大人は知識の装い、たしなみにも気を使っていた▼エーコさん、冒頭の何ページかはあえて難解に書いたという話を当時聞いた。あえて読み手を選ぶためというのだが、当方もその口で、ショーン・コネリーさん主演の映画を見て読んだふりをしてきたが、実は本棚でほぼ新品のまま眠る▼こちらは子どもも読み通せるエーコ作品である。<爆弾づくりに熱心な将軍は、戦争をしたくなりました>。かつて、書いた絵本『爆弾のすきな将軍』(海都洋子さん訳、六耀社)。最近、復刊した。平和の意味を教え、戦争の愚かさを笑う▼北朝鮮が日本人拉致被害者の調査を一方的に打ち切った。世界のやめてという声の中で「長距離弾道ミサイル」を発射した。その制裁に対しお門違いにも腹を立て約束を捨てた。もう一度会いたいと手を合わせる親がいる。その心までも瀬戸際外交の道具として掌(たなごころ)の上で弄(もてあそ)ぶ。爆弾に匹敵するおそろしさと悲しみである▼怒りと失望を押し殺し、絵本をかの枕元にそっと置いてきたい。その人は、果たして最後まで読み通せるのか。