東京大学運動会ヨット部

東大ヨット部の現役部員によるブログです。練習の様子、レース結果、部員の主張から日記まで。

優しさ。

2022年12月20日 22時00分00秒 | 引退ブログ

 お世話になっております。クルーザー班LBの萩原和眞です。少し長いですが、個人的な全日本の感想を述べていきたいと思います。ですます調ではなく、申し訳ありません。

 自分は今まで最後の大会とはどういうものか、あまり実感することがなかった。今まで引退後の先輩の泣く姿を見たことがなかった。昨年の全日本後は、皆で結果を喜び、すんなり終わった。中野さんが実は泣いていたのを、引退ブログで初めて知った。落合さんはずっと落ち着いていた。落合さんの引退ブログのように、自分も来年の全日本では落ち着き、俯瞰的な見方ができると勝手に思っていた。最後の全日本は変に気負いせず、普段通り伸び伸びとレースをするのが理想であり、そのようにできるのだろうと考えていた。

 昨年の全日本後、自分の代が始まった。全日本後、自分は落合さんに語った。「レースが楽しい。俺が日本で5本の指に入れるとしたら、小網代沖の北風のコースだと思う。小網代沖のどのコンディションでも勝てるタクティシャンになる。」
 すこしピントはずれているし、言い過ぎだが、正直な感想だった。

 この感想には確かな実感があった。その後全日本後初となるフリートレースがあった。自分以外皆ポジションが変わったばかりの未熟なチーム。そのチームで3位をとった。会心のコースを引けた。レース後、コースを松山監督と春日さんに褒められた。自分は充実感に満たされた。「やっと優秀なタクティシャンになれた。」心からこう思った。

 直後の面談で自分は松山監督にこう話した。
 「レースが凄い楽しみです。やっとチームを勝たせることできるタクティシャンになれました。」

 それからは毎レースが楽しみとなった。自分のコースには自信があった。確実に何かを掴んだ感覚があった。1人病んでた昨年の夏とは全く違う、充実感のある日々を過ごせていた。全日本でも良いコースを引いて、チームを引っ張っていく。そう思っていた。胸が高鳴っていた。

 そして全日本が来た。人生の集大成の場。全ての判断が間違えられない場。確かな自信があった。この全日本で昨年より良いコースを引いていい順位を取る。そう思っていた。

 たが、現実は違った。現実は厳しいものだった。良い結果がでなかった。コースが敗因となった。大きな判断ミスもした。上手くいかなかった。とても納得いくものではなかった。次第に焦りが募っていく。プレッシャーを感じていく。全く落ち着いていることなどできなかった。次こそ良い順位を取る。そう誓い、次のレースに挑むも、下位に沈み続けた。

 そして、全レースが終わった。終わった瞬間は呆気なかった。周りの艇の雰囲気はなんの変哲もない前日と同じレース終わりの雰囲気。俺はただ落胆していた。芳しくない結果だった。一抹の虚無感を抱えた。
 
 周りがハーバーバックしていくのが見えた。とにかく帰港するか。そう思い、維摩に質問した。「維摩、周りジェノアで帰ってるし、エンジンじゃなくジェノアで帰る?」



 その時、維摩のサングラスから涙がこぼれるのが見えた。


 衝撃だった。強烈だった。予想外だった。維摩が泣いている。何度も泣いた姿は見たことはあったが、何にも代え難い瞬間だった。急に胸を突かれた。奇妙な感情に襲われた。そして、涙が出た。本当に部活で最後のレースだと初めて実感が湧いた。嗚咽だった。自分の不甲斐なさへの悔恨。スポーツが冷酷とはこういうことか。結果が全てとはこういうことか。様々なことを急に実感した。

 何よりも悔しかった。自分への悔しさだった。結果を出せなかった。昨年よりも良いコースを引かなければならないのに。成長を感じていたのに。もっといい結果をとらないといけないのに。全日本で全く活躍できなかった。全くもってダメだった。自分自身への悔しさで胸が一杯だった。結果を出せないことがこんなに悔しいのか。初めて知った。
 
 そして次に維摩への申し訳なさが襲った。維摩のヨットへの思い入れをずっと誰よりも感じていた。今年の維摩の代わり様には驚いていた。ヨットに対して大変真面目になった。10年間で初めて見るほどの真面目さだった。維摩への申し訳なさが涙となった。自分の不甲斐なさが申し訳なかった。維摩を勝てるヘルムにできなかった。維摩に先輩と遜色ない成績を残せなかった。良い走りをしていたのに、良い結果を残せなかった。

 ハーバーバックまでの間、涙は止まらなかった。次第に涙は様々な意味を帯びていった。

 チームと応援してくれた人たちの期待に応えられなかった。チームにもっといい景色を届けなければいけなかったのに、できなかった。このチームに最高の瞬間を届けられなかった。マネージャーさんや応援してくれる人たちの期待に応えられなかった。これが最後なのが受け入れなかった。不甲斐なさと虚無感に襲われた。悔しかった。

 また驚きも感じていた。最終レース後にこんな感情に襲われるなんて、それまで全く予想していなかった。悔しさで涙がここまで止まらないなんて。感情に圧倒される、初めての経験だった。一生でこんだけ感情に圧倒されたことなどなかった。それだけヨットが、ヨット部が好きだった。大事だった。大好きなヨットに出会えて、仲間に出会えて、幸せだと感じた。ヨット部に入って本当に幸せだったなと痛感した。好きで誇れることが一つできで本当に幸運だと思った。涙は溢れ続けた。

 ただやはり、悔しさで胸が一杯だった。そんだけ好きなヨット部の最後のレースで、満足いく結果を残せなかった。周りの期待に応えられなかった。自分に自分が一番満足できていなかった。悔しくて仕方がなかった。様々な感情が入り混じりながら、兎にも角にも涙は止まらなかった。
 
 ハーバーに近づき、涙を堪えた。ハーバーに着くと、同期がいた。本当に同期だった。来てくれた同期に最高の結果を届けられなくて、より一層悔しかった。優しい、良い同期だった。工藤の言葉が身に染みた。本当に良い同期に恵まれたと思った。少し収まってきた涙がまた溢れた。もう感情など自分でも分からなくなっていた。

 その後感情を落ち着かせ、解装を終えると、松山監督からお言葉があった。監督の言葉が今も忘れられない。 



 「非常に悔しいと思う。この悔しさをバネに、ヨットを続けてほしい。」



 優しい言葉だった。帰りの飛行機。悔しさで泣いて、この言葉を思い返してまた泣いた。

 
 ヨットは辞められなくなった。







 最後にこの場をお借りして、お世話になった人々へ感謝を伝えたいと思います。
 
松山監督へ。
 仰秀監督が創設され、松山さんが監督になっていただけて、本当に有り難かったです。忙しい中、仰秀を監督として指導してくださりありがとうございました。監督の最後のお言葉がずっと心に残っています。引退ブログでこう述べるのは間違っているかもしれませんが、今もまだ悔しくてしょうがなくて、ヨットで絶対活躍するという思いが沸々と煮えたぎっています。仰秀を綺麗に締め括ることはできなかったけど、この悔しさを忘れず、ヨットを続けていきます。

先輩へ。
 磯野さん、春日さん、太朗さん、中野さん、落合さん。本当にお世話になりました。未熟で不器用な自分で、いろいろ迷惑をおかけしました。そんな自分が、タクティシャンという一つ誇れるものができました。優しい先輩たちのお陰です。ありがとうございました。今はとにかくもう一度一緒にヨットに乗りたいです。

同期へ。
・美緒
 優秀すぎるし、コミュ力強すぎるし、なんでも挑戦するし、周りは見えてるし。気配りできるし。それでいて真面目だし。何もかもできて、人間力が違いすぎました。

・香穂へ
 仰秀への思いがダントツでした。誰よりも仰秀を強くするために熱い思いを持っていて。耳が痛くなるような喝をプレーヤーに入れて。その思いが仰秀班を強くしていました。その愛の大きさと凄まじい行動力には一生敵いません。

 2人が揃うと怖いものなしでした。本当に優しくて優秀でした。周りの期待をどんどん超えていく凄い2人でした。2人が同期で本当に幸運でした。大変お世話になりました。本当にありがとうございました。

・維摩へ
 10年間。腐れ縁でした。「この海面が一番難しかったな。」全日本後にこう言ってくれたことに感謝しています。救われました。主将お疲れ様でした。

・ディンギー班の皆へ
 あまりに長い同期MTGから君たちのヨット愛は、ヨット部への熱い思いは嫌でもひしひしと伝わってきました。和歌山まで来てくれて本当にありがとう。やっぱり部活の最後の着艇は、自分にとって忘れられない大切な瞬間で、同期が来てくれて本当に嬉しかったです。一緒にレースに出るのをとても楽しみにしています。

後輩へ。
 一人一人個別に言いたいことがあるけれど、ブログに書くにはあまりに長くなるので個人的に送ります。

 ただ一つだけ。
 代交代の時、中野さんにこう言われました。「先輩を超えるのは当たり前だ。」先輩が環境を整え、知見を培ってくれたからです。ただ今年の自分たちにはできませんでした。大変だと思いますが、7人の想いを一つに、自分たちが体験することのできなかった目標総合5位を成し遂げて欲しいです。活躍を期待しています。


 他にも支えてくれた家族、LBの方々、ディンギーの先輩・後輩、仰秀、畠山さん、Jellyfishの方々、月光の方々、いろんな方にお世話になりました。ありがとうございました。皆さんの優しい支えに本当に感謝しています。


 これからも東京大学ヨット部をよろしくお願いします。


           
萩原和眞

                



 








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