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「戒院と『成院』」14

2020年01月07日 | T.B.2002年
病院からの帰り道、
『成院』は少し遠回りをして村の端に向かう。

人通りの少ないそこには
一族の墓地がある。

目的の場所に辿り着くまでに
並ぶ墓に刻まれた名前が
ぼんやりと目に入る。

宗主の息子。はとこだった。
医師の娘。彼女も病で命を落とした。
それから
いくつも、いくつも、
知っている名前や、
知らない名前を通り過ぎ、
1つの墓の前に。

自分の名前が刻まれた、
『戒院』の墓。
そこに戒院は居ない。居るのは。

「………ええ、と」

今までも、これからも、
きっと何かを決めるときは
ここに来るのだろう、と思う。

だから、今日も。

「俺は、先に進むよ」

『成院』は持っていた包みを
抱え直す。

中には2つの衣装が入っている。
一族の伝統の刺繍が縫い込まれて、
質の良い素材で作られている。

『成院』が看た患者は、
それを作る事を仕事としていた。

門出を祝う際に
身につける服。

恐らく、一生に一度きり。

「………」

うん、と頷き、
踵を返し家へと向かう。

彼女は喜んでくれるだろうか。
この衣装はきっと喜ぶだろうが、
自分への返事がどうだろうか。

今さら、やっぱりなんてことも。

「ああ、緊張する」

自宅の前で深呼吸。
柄でもない。

「………ただいま」

ドアを開くと中から返事が返ってくる。

「あら、おかえり成院。
 今日は早かったのね」
「仕事が早く済んで」
「良いことじゃない。
 少し働きすぎだもの」

お茶でも煎れましょうか、という彼女に
いつものやつを、と『成院』は答える。

「晴子、その前に」

「え、なにどうしたの?
 なにこれ、大きな荷物ね」

開けてみて、と良いながら
『成院』は扉を閉める。





東一族の村にて。

T.B.1999~2002
「戒院と『成院』」



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