「さっきも云っただろう」
裏一族が云う。
「ほかの同一族が羨ましかろう、って」
佳院はそのまま。
裏一族を見る。
「俺の子たちもそうだ」
「…………?」
「他一族の血が混じれば、少なからず容姿は変わってくる」
「……子、たち?」
「一族から、外れにされる可能性が高くなると云うことだ」
「先ほどから、何を云っている……?」
「だから、家族を帰せと云ったんだ」
佳院は肩を押さえる手に、力を込める。
額から、汗が流れる。
「まさか、」
「東一族は純血だからな」
裏一族が云う。
「そもそも、混血は不要だろう?」
「お前、水辺の一族たちに……?」
その言葉に、裏一族はふっと笑う。
各一族で理由も判らず失踪する者たち。
もし
そのすべてが、何かつながっているとしたら。
ある程度、その一族の情報を持たせた上で、裏へと連れ込むのなら。
「そうか。満樹はお前の、……」
「うんうん。判ってくれたならそれでいい」
裏一族は空を見る。
「日が昇るか」
薄明かり。
「そろそろ、助けが来るんだろ」
裏一族は手を上げる。
「じゃあな」
その言葉と同時に、
姿が消える。
ただの砂漠。
佳院しかいない。
佳院は立ったまま。
肩を押さえたまま。
動かない。
ただ、耐える。
…………。
「…………」
「…………」
「……おーい」
佳院ははっとする。
どれぐらい時間が経ったのか。
「大丈夫か?」
佳院は肩で息をする。
目を開く。
戒院が、顔を覗き込む。
目が合う。
「意識はあるな」
戒院は、陣を張る。
その陣が光る。
「よく耐えたな」
佳院の肩に刺さる矢には、
「毒だろう?」
下手に動けば、身体に毒が回る。
ただじっとすることで、その被害を最小にとどめる。
「今、毒を抜くからな」
戒院は矢を見る。
「狩猟の毒だな。砂一族性ではなさそう、か」
「西一族性だ」
佳院が云う。
「西一族が狩りで使う基本的な矢毒」
「なら、話は早い」
身体を硬直させ、獲物の動きを止める毒。
放っておけば、身体の機能がすべて止まり、死に至る。
「こればっかりはなー」
処置をしながら、戒院が云う。
「鍛錬しても、慣れる、のは難しいからな」
佳院は痛みに顔をゆがめる。
「しっかりしろ」
戒院が云う。
「毒は抜いたから」
佳院は、地面に坐り込む。
感覚を戻そうと、目を閉じる。
「これ、持って行くだろ?」
戒院は、刺さっていた矢を持つ。
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