TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「律葉と秋葉と潤と響」1

2018年09月11日 | T.B.2024年

身支度を整え、姿見の前に立つ。

前髪を整え、
体を捻り、後ろ姿を確認。

「よし」

小さく呟いて、部屋を出る。

「………」

居間を通り過ぎ、
玄関のドアを静かに開く。

「律葉(りつは)」
「……お父さん」

いつの間にいたのだろうか、
キッチンに父親が立っている。

「出掛ける時は
 声をかけろといっただろう」
「寝ているかと思って」

律葉の父親は
仕事の時間が不定期なため
昼間も寝ている事がある。

「寝ていても、
 声はかけなさい」
「はい」

律葉が答えると、
分かれば良い、と頷く。

「いってきます」
「ケガをしないように」
「はい」

父親に見送られ、家を出る。

「いつまでも
 子どもじゃないんだから」

もう、十四歳よ、と
独り言を言いながら村の中心地へ向かう。

橋を越えた先、
広場には人が集まりはじめている。

西一族は狩りの一族。
律葉ほどの歳になれば、
一人前として狩りに出る事になる。

「班分けどうなるのだろうね」

先日の模擬の狩りで同じ組だった子が
話しかけてくる。

「律葉と同じ班だったらいいな」
「そうね」

今までは
年上の人達と一緒に狩り場を周り、
訓練を重ねてきた。

これからは、
正式に班組が行われ、
本格的に狩りに出ることになる。

模擬の訓練の時は
我ながら上手くこなせた、と
律葉は考えている。

「もう、全員揃ったか?
 中心に集まるように」

今日の狩りの進行役が
皆を呼び集める。

「班は4~5人割となる。
 呼ばれた者は班ごとに集まり並ぶように。
 最初に呼ばれた者が班長だぞ」

ざわざわ、と
心なし、集まった皆の高揚が伝わってくる。

その時の進行役の采配で
多少班割が変わることもあるが
班のメンバーは基本固定。

狩りの成果は、村での評価にもつながる。
誰と同じ班になるか、
皆が一番気になる所だ。

「豪(ごう)、静葉(しずは)、修(おさむ)、彩葉(いろは)」

次々と、名前が呼ばれていく。

「なかなか、呼ばれないね」
「今年は人数が多いから」
「緊張しちゃうね、
 あ、私だ、それじゃあ律葉」

その子は呼ばれて
そちらへと駆けていく。

「同じ班が良いって言ったじゃない」

ふーん、と律葉は
一人愚痴る。

周りの皆も呼ばれて
だんだんと
呼ばれない人の方が少なくなっていく。

「………」

呼ばれない、
どの班にも入れないなんて事。

そんな事があったらどうしよう、と
思わず下を向く。

「律葉」

そう考え込んでいるときに
急に名を呼ばれる。

「……はい」

律葉は慌てて立ち上がる。
ぼうっとしていて
誰と同じ班なのか聞き逃してしまった。

「えっと」
「律葉!!こっちよ!!」

誰の元に行けば良いのか、と
辺りを見回していると
こっちこっち、と呼ぶ声が聞こえる。

「どうも」
「よろしくーー!!」
「やったぁ、律葉と同じ班」

どの顔も、見たことはある。

潤(じゅん)
響(ひびき)
秋葉(あきは)

でも、普段の付き合いはなく、
訓練の狩りでも違う班だった。

この班が当たりかハズレかというと
律葉にはさっぱり見当が付かない。

「よろ、しく」

少し戸惑いながら
律葉は返事を返す。


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「東一族と裏一族」12

2018年09月07日 | T.B.1997年


「さっきも云っただろう」

 裏一族が云う。

「ほかの同一族が羨ましかろう、って」

 佳院はそのまま。
 裏一族を見る。

「俺の子たちもそうだ」
「…………?」
「他一族の血が混じれば、少なからず容姿は変わってくる」

「……子、たち?」

「一族から、外れにされる可能性が高くなると云うことだ」

「先ほどから、何を云っている……?」

「だから、家族を帰せと云ったんだ」

 佳院は肩を押さえる手に、力を込める。
 額から、汗が流れる。

「まさか、」

「東一族は純血だからな」
 裏一族が云う。
「そもそも、混血は不要だろう?」

「お前、水辺の一族たちに……?」

 その言葉に、裏一族はふっと笑う。

 各一族で理由も判らず失踪する者たち。
 もし
 そのすべてが、何かつながっているとしたら。
 ある程度、その一族の情報を持たせた上で、裏へと連れ込むのなら。

「そうか。満樹はお前の、……」
「うんうん。判ってくれたならそれでいい」

 裏一族は空を見る。

「日が昇るか」

 薄明かり。

「そろそろ、助けが来るんだろ」

 裏一族は手を上げる。

「じゃあな」

 その言葉と同時に、

 姿が消える。

 ただの砂漠。

 佳院しかいない。

 佳院は立ったまま。
 肩を押さえたまま。

 動かない。

 ただ、耐える。

 …………。

「…………」

「…………」

「……おーい」

 佳院ははっとする。

 どれぐらい時間が経ったのか。

「大丈夫か?」

 佳院は肩で息をする。
 目を開く。

 戒院が、顔を覗き込む。

 目が合う。

「意識はあるな」

 戒院は、陣を張る。
 その陣が光る。

「よく耐えたな」

 佳院の肩に刺さる矢には、

「毒だろう?」

 下手に動けば、身体に毒が回る。
 ただじっとすることで、その被害を最小にとどめる。

「今、毒を抜くからな」
 戒院は矢を見る。
「狩猟の毒だな。砂一族性ではなさそう、か」
「西一族性だ」

 佳院が云う。

「西一族が狩りで使う基本的な矢毒」

「なら、話は早い」

 身体を硬直させ、獲物の動きを止める毒。
 放っておけば、身体の機能がすべて止まり、死に至る。

「こればっかりはなー」

 処置をしながら、戒院が云う。

「鍛錬しても、慣れる、のは難しいからな」

 佳院は痛みに顔をゆがめる。

「しっかりしろ」
 戒院が云う。
「毒は抜いたから」

 佳院は、地面に坐り込む。
 感覚を戻そうと、目を閉じる。

「これ、持って行くだろ?」

 戒院は、刺さっていた矢を持つ。



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