「君は、ここの春は初めてだろう」
南一族の医師が言う。
いや、とタロウは答える。
「去年も居ましたけれど」
「ほぼ病室で過ごしていたじゃないか、
あれは、カウントしません」
「……カウント」
「楽しんだら良いよ。
昼間っから堂々と、飲めるの、なんて
花見ぐらいなんだから」
イエーイ、と医師が花見の集団に駆けていく、
と、思いきや
一回戻ってきてタロウに耳打ちする。
「いつか、事情を話せるときが来たら
あの子達に聞かせてあげたらよい」
「えぇ、いつか」
そうだね、と医師が言う。
「僕にとっては
君が抱えている問題は
そう大きな事では無いと思う」
きっと二人もそう言うだろう、と。
そして、
ゴホン、と僅かに咳払いして続ける。
「早いほうが良いかも。
どこかの村で罪を犯したアサシンぐらいに思ってるから」
「……ええぇ!!」
「今回は君が悪い。
大げさな言い方するから」
「ちょま、ちょっと、待って。
マジダ。ジロウ。
あのね~」
あわてたタロウが
二人の元へ駆けていく。