TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「琴葉と紅葉」17

2017年04月14日 | T.B.2019年

 琴葉の母親は、息を吐く。
 仕事場の、自身の机に向かい、頭を抱える。

 日は高い。

 その視線の先には、村長直属の男。

「命令ですから」

 琴葉の母親は頭を抱えたまま、目を閉じる。

 不安になる。
 娘が、ひとりで西一族の村を出たのだ。

 いつのことだったのだろうか。
 気付かなかった。
 まさか、いなくなるなんて、考えたこともなかった。
 何も云わなくても、あの家にいるものだと思っていた。

 本来ならば、何てことのないこと。
 西一族が、村外へ出かけることは、自由なのだから。

 けれども、琴葉は足が悪い。

 それだけではない。
 娘には、西一族の村を出てはいけない理由が、ある。

 琴葉の父親は諜報員。
 父親が西一族を裏切らないよう、娘は人質なのだ。

 ――本人は、知らないが。

 そして、
 娘と云う人質がいなくなった今、自分にも見張りが付いた。

 娘を探しに行くことが、出来ない。

「ねえ」

 琴葉の母親は、部屋にいる男に声をかける。

「誰か、探しに行ってくれているの」
「そのはずです」
「まだ、見つからないの?」
「だから、待機命令が続行されています」
「いったい、いつから娘はいないのよ」
「知りません」
「……知らないって」

 男が云う。

「娘の母親が知らないのに、なぜ我々が知っていると?」

 琴葉の母親は、口を閉じる。

 そうだ。

 ……そうなのだ。

 いつも仕事ばかりで、家に帰ることは滅多にない。

 娘がいなくなったこと、
 今も見つからないこと、
 この男や村長を、責めることは出来ない。

 母親失格だ。

 琴葉の母親は息を吐く。
 窓の外を見る。

「まあ、知っているとしたら」

 男が云う。

「あの、黒髪じゃないですか」
「黒髪の……」

 母親は、男を見る。

「ねえ、黒髪の子をここに呼んできてくれない?」

 男は笑う。

「説教でもするのですか」
「違うわよ」
「無理です」

 男が云う。

「あの黒髪にも、待機命令が出ています」
「あの子にも?」
「家から出られないはず」

「……そう」

 男が首を傾げる。

「やっぱり、嫌になったのでしょうね」
「嫌?」
「黒髪と結婚させられたこと」
「…………」
「そりゃあ、西一族ならそう思って当然です」
「…………」
「母親のあなただって、黒髪の孫が生まれたら嫌でしょう」

 母親は答えない。

「あ、でも。西の黒髪から、黒髪の子が生まれることはほとんどないとか」

 男が云う。

「まあ、そもそも前例はないですが」

 西一族で突発的に生まれる、黒髪の者。
 その存在は消され、
 表に姿を現すことなく、一生を終えることが普通なのだ。

「とにかく」

 母親が云う。

「娘が見つかったら、連絡は入るのよね」
「もちろんです」



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「タロウとマジダとジロウ」9

2017年04月11日 | T.B.2001年

ジロウはタロウの事をよく知らない。

子どもにとっては、
一回り歳が離れている人なんて
そんな物。

大人に聞いて知っているのは
どこか遠くの村で暮らしていた、
病院のタカシ先生の親戚だという。
それなら南一族……だと思う。
南一族の証である頬の入れ墨もある。

ここ1年の間で南一族に戻ってきた。

暮らしていたと言う遠くの村で
何かあった、かもしれない。

気がつけば居た。

気になっている子が
毎日のように通い詰めていると聞いて
様子を見に行った。

単純に遊びに行っているだけだが
何とも頼りなさそうな
へらへらした男だ、と思った。

マジダ、こいつのどこが良いの?

と、それが未だに疑問。


「タロウ!!」

小屋へ入る第一歩は
いつもより少し勇気が要る。

それでも怒りの方が勝っているジロウは
ずかずかとタロウの小屋に入る。

「おい、危ないから」
「仕事なんてしてないくせに」
「何言ってるんだ、
 今は忙しいから、しばらくは」
「知るか、出かけるんだよ」

引っ張ろうとするジロウの手を
タロウは簡単にふりほどく。

「昨日も言っただろう俺は」
「俺に構うな、
 居なくなるからって?」
「……カイセイ」

タロウが低めの声でジロウを呼ぶ。
ここに来て本名で。

ジロウだって知っている。
頼りない様に見えて、
タロウはきちんと【大人】だ。

怒っている。
でも、それはジロウも同じ。

ジロウがタロウのすねを蹴る、が
自然に避けられる。

「こら、何やって」

分かってる、
最初に会ったときだって、
避けられたのを避けなかった。

だから、ジロウは悔しかった。

けど、

「もっと周り見てみろよ!!」

最初っから避けられるつもりで
ジロウは逆の脛を
思いっきり蹴り上げる。

「いっつ!!」

思ってもいなかった動きに
タロウは思わず屈み込む。
ジロウは背後に回り、背中を思いっきり押す。

ただ、それだけ、
タロウはふらついて前に2.3歩よろめく。
入り口付近で揉めていたせいで
タロウは小屋から出る形になる。

「女、泣かすな、バカ!!」

そんなジロウの怒鳴り声に
タロウは思わず前を見る。

「………」

マジダがそこにいる。


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「琴葉と紅葉」16

2017年04月07日 | T.B.2019年

 日が高くなる。

 琴葉は北一族の村の広場にやって来る。
 そこには、いろんな一族があふれている。

 琴葉は、適当な場所に坐る。

 先ほど買った果物を食べる。

 食べ終わると、しばらくそのまま動かない。

「……疲れた」

 坐ったまま、目をつむる。

 父親はどこにいるのだろう。
 ただ歩き回っても、見つからないことは判っている。

 北一族の村は、想像以上に広い。

 誰か、詳しい者に声をかけるしかない。

 けれども、

 琴葉はそれが苦手だった。

「どう、しよっかな……」

 ふと、琴葉は気付く。

 少し、眠ってしまったらしい。

 何かの気配を感じ、

 思わず、それを振り払う。

「何!?」

「あ、あぁ、ごめん」

 はっきりしない頭で、琴葉は目の前を見る。

 ひとりの男。

「……誰?」

 琴葉は目を細める。
 男は、人のよい笑みを浮かべる。

「何かあったのかと思って」
「何もないわよ!」
「ひとり?」
「そうよ!」
「西一族がこんなところで?」

 琴葉は、男をよく見る。
 北一族の格好をしている。

「ひとりで遊びに来ることだってあるわよ」
「そう?」

 男は、琴葉をのぞき込む。

「誰か探している?」
「……何でよ」
「雰囲気見れば判るよ」
「…………」
「北一族の村に、そうやって人捜しに来る人が多いから」

 琴葉は何も云わない。

「誰を探しているの?」
「…………」
「俺、人捜しの手伝いをしているんだ」
「手伝い?」
「そう」
「でも、」
「お金はいらないよ」

 男が云う。

「北一族の村での困りごとを解決したいから、さ」

「…………」

 琴葉は再度、男を見る。

 云う。

「父さん、なんだけど……」

「お父さん? 君の?」

 琴葉は頷く。

「村の外で働いていて」
「そうか」

 男は口元に手をやる。

「北は、他一族での商売も多いからね」

 男は手を出す。

「西一族が多く店を出しているところへ、連れて行ってあげる」

 琴葉はその手を見る。

「きっと、君のお父さんいると思うよ」

 ほら、

 促されて、琴葉はその手を取る。



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「タロウとマジダとジロウ」8

2017年04月04日 | T.B.2001年

「おはよう、タロウ」
「来てやったぞ」

作業小屋の入り口で
マジダとジロウがタロウを呼ぶ。

小屋の中にはタロウが仕事で使う物が多い。
危ない物もあるので
タロウが良いよ、と言ってから入るのが決まり。

「おはよう2人とも」

す、とタロウが顔を出す。

「今日は何して遊ぶ?」
「……申し訳ないけれど、
 今は作業が立て込んでいるから」
「そうしたら、明日はどう?
 あのね」
「しばらくは無理かな」

すまない、とタロウは言う。

「マジダ?」

返事を返さないマジダに
タロウがうん?と顔を覗き込む。

「………わかった」

「仕方ないじゃん。行こうぜ、マジダ」

渋々付き添って来たジロウは
ほら、とマジダの手を引く。

「じゃあな」
「ああ」

タロウは手を振って2人を見送る。

ジロウはマジダと歩く。
村の広場が近づいて、何して遊ぶ?俺ん家くる?と
問いかけるも、マジダは神妙な顔つきのまま。

「なぁ、マジダってば」

「ねぇ
 タロウ、怒ってた?」

マジダの問いかけに
は?とジロウは言葉を漏らす。

「仕事が忙しいだけだろ。
 あいつ、ニコニコしてたじゃんか」
「うん、笑ってた」
「だろう?」

「でも、何かやだ。
 ピリピリしてる」
「う……ん」

笑顔だったけれど、少し違う。

それに、タロウは2人にはすまない、とは言わない。
ごめんね、と言う人。

「何かあったんじゃないのか。
 別に、マジダに怒っている訳じゃないと思うぞ」
「わかってる」
「そのうち落ち着くって」

放っておけばいいと、ジロウは言う。

「あれ、最初と同じ」
「最初?」
「村に来たばかりの時も
 あんなだったの」

と、マジダに言われるも
村に来たばかりの頃のタロウを
ジロウはよく知らない。

「タロウ、またねって言わなかった」

マジダがジロウに言う。

「どうしよう。
 タロウが……どこかに行っちゃう!!」
「どこに?」
「わかんない、でも
 居なくなっちゃう」

「………」

ジロウは、
もう遠くに見える
タロウの作業小屋を睨み付ける。

振り返ると、マジダに言う。


「マジダ。
 明日は予定通りだ!!」


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