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「タロウとマジダとジロウ」10

2017年04月18日 | T.B.2001年

「タロウ」

「出て行くの?」
「いや、俺は」
「ちゃんと、答えて」

マジダの言葉に、タロウはしばらく逡巡して答える。

「うん」

「なんで?」
「なんで、って」

「みんなに迷惑がかかるから」
「かかってないわ」
「これから、きっとそうなるから」
「だから?」
「もっと遠くに行かなくちゃ、て」

不思議だ、とタロウは思う。
マジダを前にすると
黙っておこうと思っていた言葉が
自然と口から出てくる。

「私、毎日遊びに来ていたわよね」
「ああ」
「年上のタロウ相手に
 生意気な言い方もしたわよね」
「そうだね」

「迷惑だった?」

タロウは首を振る。

「いや、楽しかったよ」

毎日、お茶とお菓子を準備して
待つくらいに。

「行きたい所があるなら
 帰りたい所があるならいいけれど」

ねぇ。と
マジダが言う。

「でも、そうじゃないなら
 居なくならないで」

服の裾をぎゅっと握り、
マジダが震える。

「……マジダ?」
「タロウがタロウじゃなくても
 迷惑かけても
 みんな、がっかり、しないから」

うわぁあ、とマジダが泣き出す。
ジロウが言っていた、
女を泣かすな、と。

「あ、わ、わ。
 マジダ、ちょっと、泣かないで」

「あぁあ、泣かせちゃった、
 知らないんだ~」
「マジちゃんを泣かせやがって」

遠くから様子を見ていたのか、
南一族の医師とユウジが歩み寄る。

「え」

「マジダがね、自分で止められなかったらって
 呼んで置いたんだよ」

ジロウの言葉に応えるように
医師が言う。

「まぁ、必要無かったみたいだけど」
「医師様」

南一族の医師はタロウを制する。

「タロウ、違うだろ。【先生】だ」
「あ」

タロウは口元を押さえる。
ユウジもその様子を見て告げる。

「どうだ、キナリより
 もっと前の名前に戻りたいなら
 俺は止めないが」

かろうじてタロウの事情を知っている二人。

「みんな、お前のこと結構気に入ってるんだ。
 お前が思っている以上にな。
 困っているなら皆が協力する」

タロウは、ユウジに頭を下げる。

「ありがとうございます。村長」
「いつも通り、ユウジさんで構わねぇよ」

「俺も」

タロウは辺りを見回す。

最期にマジダの方を見つめ、
こぼれるように口にする。

「俺も、タロウが、いいです」

「タロウ!!」

ごめんね、と
マジダを抱えながら
タロウはジロウに目配せする。

少し震えている。

それはそうだ、
怒る大人を一人で相手にしたのだから。
でも、意地でもタロウを引っ張り出した。

「ジロウ、君
 格好良かったんだな」
「当たり前だ、
 ―――じゃあ、行くか」

「そうだな」
「みんな待たせてますからね」

え、何に?と一人タロウは混乱する。
ユウジも医師も、みんなでどこに?
マジダが涙を拭き、降りる、と言うので
そっと下ろしてあげる。

「みんなに声かけていたの。
 もうすぐ満開だから、そうなったら行こうって」
「ずっと計画してたんだからな、
 おれん家のぼたもちも沢山持ってきたぞ」

マジダがタロウの手を引く。
ジロウは仕方ないと言うそぶりで
二人の後を追う。

「桜が満開なの。
 今日はね、お花見よ」

タロウは歩く。
それは、行こうとしていた村の出口ではなく、
村の中心の広場。

明日もまた、遊ぼうと約束しながら。


南一族の村にて
T.B.2001タロウとマジダとジロウ