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「天院と小夜子」12

2015年03月27日 | T.B.2017年

 焼け跡から、誰かが運び出される。

 片付けをしている村人に混じって、彼はその様子を見る。
 運び出された者は、ふたり。

 布にくるまれ
 もはや、誰、なのか、判らないが

 おそらく

 昨夜、

 彼が、手をかけた者なのだ。

 火は消えているが、あたりには焦げた臭いが続く。

 ここに、
 もともと何もなかったかのように、すべて片付けられてしまうのだろう。

 誰かが話し出す。

「いったい、何があったのかしら」
「流行病だよ」

 村人たちが、云う。

「ああ。また出たの」
「それで、家ごと燃やすなんて」
「宗主様のご命令だよ」
「そんなに危険な病だったのかしら」
「危険に決まってる」

「治療薬はないし、」
「これが、今の、最善の策なのさ」

「でも、」

「気の毒だわね……」

「いい夫婦だったのよ」
「知ってる」
「それなのに、流行病になるなんて」
「それを、広げるわけにはいかないだろ」

「本当に、気の毒だわ……」

「そうね……」

 村人たちは、手を動かしながら、話し続ける。

 彼は、この場を去ろうと、歩き出す。

 が

 ふと、足を止める。

 彼の視線の先。
 布にくるまれたものに、誰かがすがりついている。

 誰だろう。
 顔は見えない。

 けれども

 誰かは、涙を流していることは、判った。

 村人は、その様子を気にもとめない。
 片付けを急いでいる。

 誰かは泣き続ける。

 彼は、誰かに近付く。
 手を伸ばす。
 その背中に、声をかけようとする。

 ……どう声をかけたらいいのか、判りもしないのに。

 彼は首を振り、伸ばした手を、戻す。

 ただ、誰かを見つめる。

「……じゃ、ない」

 誰かは呟く。

 泣く。

「流行病なんかじゃ、ない……」



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