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「タロウとマジダ」4

2015年04月07日 | T.B.2001年

「おう、タロウ、居るか?」
「あぁ。ユウジさん。
 ……おつかれさまです」

珍しい来客だ、と
タロウは立ち上がる。

「どうだ仕事の具合は?」
「まぁ、ぼちぼちもいいところです」
「だろうな」

同じ村の、同じ農具整備をしている。
とてもベテランの職人だ。
同業者……と言う程の実力もないタロウには
やはり厳しい。

どうぞ、と椅子を示すが
ユウジは座る気配もない。

「ええっと」
あ、そうだ、お茶だ。
タロウはいつもマジダの為に準備しているお茶のセットを取り出し
「茶はいらん」
―――取り出せなかった。

「お前は、この道を目指していた訳じゃない。
 仕方なくこれをやっている。
 俺はそう思っているわけだ」

「えぇ、そう、ですね」

ユウジの言葉は厳しい。
でも、何も間違っていない。
タロウはもっと違うものになりたかった。

なれなかったというと少し違う。
そんな選択肢の前に、
タロウはそこから退場したからだ。

「俺は、選べなかっただけだ」

自身についての噂話も
どこか、核心を付いてはいるのだろうな、と。

そういう自覚がタロウにはある。

その程度の覚悟で同じ仕事をされたのでは
彼ほどの職人には気に障る事もあるだろう。

「でもまぁ、
 そういう道の入り方もあるのかもしれんな」

「……?」

「なんだ?なんか文句あるか?」
「いや」

あれ、おかしい。
これ絶対、お前みたいな中途半端なやつ許せないとか
そんな流れだったのに。

「自分のためにって作られた品はいい物だな。
 そういう価値がある」
「ええっと」
「マジちゃんの小刀」

なるほど、
タロウは点と点が繋がる。

マジダがあの小刀をユウジに見せたようだ。
つまり、これは
彼なりにタロウを褒めているのかもしれない。

「あの、やっぱりお茶を」
「いらんて」
「……ですよね」

ユウジはそのままタロウの整備小屋を
後にする。

「ひとつ言っとくぜ」

最期にユウジは背中で語る。


「あの小刀最初に作ったの
 おいちゃんなんだからな!!!」


あ、とタロウは気がつく。
これ、ライバル宣言だ。


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