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「小夜子と天院」12

2015年03月06日 | T.B.2017年

「あの子の目、ますます悪くなっているわ」

 母親が云う。

「医師様に診てもらったけれど……、治療法がないみたい」
「治療法、か」
 父親が呟く。
「ほかの一族で……」
「ほか、て、北一族の医師様とか?」

 母親は息を吐く。

「将来、仕事も出来ないんじゃ、冷たい目を向けられてしまうわ、あの子」

「大丈夫。みんな、助けてくれるさ」
「そうだといいけど……」

 母親が云う。

「次の宗主様があの方になるなら、不安で」
「あの方?」

 父親が首を傾げる。

「あの、白色系の髪の、息子様か?」
「わがままって、噂でしょ」
「でも、宗主様の息子様なんだから、致し方ない」
「あの子、いじめられてしまうわ」
「まだ、先の話だよ……」

 隣の部屋から物音がして、父親と母親は話すのをやめる。

「起きたかしら」

 母親は、外を見る。
 まだ、日は高い。

 母親は隣の部屋に行く。

 昼寝から起きたばかりの娘を、連れてくる。

「今、準備するわ」

 母親は軽食を準備する。
 それを並べると、娘を席に着かせる。

「これ食べたら、豆むき手伝ってくれる?」

 娘が頷く。

「豆むきも今のうちに、練習して、」
 母親が云う。
「今度、糸の紡ぎ方も教えるわね」

 軽食を食べながら、娘は笑顔で頷く。

「何でも練習しておかなきゃね」

 軽食をほおばる娘を、母親は見つめる。

 と

「ほら」

 父親が何かを取り出す。

「食べ終わったら、これを飲んでごらん」

 それは

「……薬?」

 母親は動揺する。

「あなた。……それ、」
「薬だよ」
「ええ」
「目の病に効くらしくてね」
「どう、したの」

「実は、ほかの一族にもらったんだ」

「ほかって」

「ほら。飲んでごらん」

 父親は、娘に薬を飲ませる。

「大丈夫……なの?」

 不安げな表情で、母親はその様子を見る。

「目の病に効くって、云ってた」
 父親が云う。
「間違いない」
「云ってた、て、いったい誰が……」

 父親は答えない。

 云う。

「これは一回分だから、また、もらってくるよ」
「簡単にもらえるものなの?」
「大丈夫」

 父親が云う。

「心配だろう? この子の将来が」
「…………」
「次の宗主様に何をされるか、不安だろう?」
「……ええ」

「今は、これを信じよう」

 それは、

 父親が

 東一族の情報と引き替えに、砂一族から手に入れた

 ……一回分の薬。

 それが本物だったのかどうか、今では知るよしもない。



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