焼け跡から、誰かが運び出される。
片付けをしている村人に混じって、彼はその様子を見る。
運び出された者は、ふたり。
布にくるまれ
もはや、誰、なのか、判らないが
おそらく
昨夜、
彼が、手をかけた者なのだ。
火は消えているが、あたりには焦げた臭いが続く。
ここに、
もともと何もなかったかのように、すべて片付けられてしまうのだろう。
誰かが話し出す。
「いったい、何があったのかしら」
「流行病だよ」
村人たちが、云う。
「ああ。また出たの」
「それで、家ごと燃やすなんて」
「宗主様のご命令だよ」
「そんなに危険な病だったのかしら」
「危険に決まってる」
「治療薬はないし、」
「これが、今の、最善の策なのさ」
「でも、」
「気の毒だわね……」
「いい夫婦だったのよ」
「知ってる」
「それなのに、流行病になるなんて」
「それを、広げるわけにはいかないだろ」
「本当に、気の毒だわ……」
「そうね……」
村人たちは、手を動かしながら、話し続ける。
彼は、この場を去ろうと、歩き出す。
が
ふと、足を止める。
彼の視線の先。
布にくるまれたものに、誰かがすがりついている。
誰だろう。
顔は見えない。
けれども
誰かは、涙を流していることは、判った。
村人は、その様子を気にもとめない。
片付けを急いでいる。
誰かは泣き続ける。
彼は、誰かに近付く。
手を伸ばす。
その背中に、声をかけようとする。
……どう声をかけたらいいのか、判りもしないのに。
彼は首を振り、伸ばした手を、戻す。
ただ、誰かを見つめる。
「……じゃ、ない」
誰かは呟く。
泣く。
「流行病なんかじゃ、ない……」
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FOR「小夜子と天院」15