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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「小夜子と天院」13

2015年03月13日 | T.B.2017年

 何日経ったか。

 小夜子は、前に豆を並べ、庭に坐っている。
 仕事は、進んでいない。

 小夜子は息を吐く。

 あれから、彼を見ていない。

 いったい、あのあと、どうなったのだろう。
 どう考えても、怖ろしいことしか浮かばない。

「見つけた」

 ふと、声がかけられる。

 まさか。

「小夜、見つけた」

 そこに、宗主の息子。

「ご子息様……」
 小夜子は目を見開く。
「小夜、云ったよね。いなくなったら罰だって」
 小夜子は震える。
「あの……」
 震える声で、小夜子は云う。
「天院様は?」
「さあ」
 宗主の息子は、笑う。
「気になる?」
 小夜子は、宗主の息子を見る。
「天院はー、どうしたのかなぁ。父さんのところかなー」
 さらに
「それとも、砂一族の討伐に行かされているのかなー」
「天院様は」

「天院なんか、今はどうでもいいんだよ」

 宗主の息子の表情が、凍る。

「今は、小夜の罰の話だから」
「罰……」

 宗主の息子は、小夜子をまじまじと見る。
 指を、差す。

「じゃあ。……それ」

「え?」

 小夜子は、宗主の息子が指差す方向を、見る。
「小夜の腕の装飾品、ちょうだい」
「装飾品を……?」

 小夜子は自分の腕を見る。

 東一族は、ひとりずつ違う装飾品を腕に付けている。
 ひとり、ふたつずつ。
 もちろん、宗主の息子もだ。

 生まれたときに、親が作ると云う。

 つまり

「これは……」

 小夜子の、亡き両親が作ってくれた形見の品だ。

「ふうん」

 宗主の息子が云う。

「それ、くれないなら、屋敷から出て行く?」
「え?」
「もう、天院にも、会えないねー」
 小夜子はうつむく。
「それか、小夜の罰を天院に受けてもらう?」
「…………」
「どれでもいいよ。選んで!」

 小夜子は、何も云わない。

「小夜」

 宗主の息子の声が低くなる。

「早く」

 小夜子は

 ――腕の装飾品を、ふたつともはずす。

 宗主の息子に、差し出す。

「わあ。ありがとう!」
 宗主の息子は受け取り、それを、見る。

 と

「なんか、小夜のたいしたものじゃないねぇ」

 そう、笑う。

 小夜子は顔を上げない。

「でも、もらうね」
 宗主の息子は、小夜子を見る。
「どうしよっかなー」
 云う。
「水辺に行って、小夜の装飾品で水切りしよっかなー」

 小夜子は、何も云わない。

「よし。今から行ってこよっと」

 うつむいていた小夜子は、顔を上げる。

 そこに、もう、宗主の息子はいない。



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