「…………?」
彼女は、病棟の廊下で立ち止まる。
彼女の足下に、何かが落ちている。
「これは……、」
彼女はそれを拾い上げ、見る。
「何かの羽?」
よく見ると、
飾りが付けられ、装飾品に仕立て上げられている。
西一族独特の、狩りの証だ。
西一族は、狩りを行う一族。
仕留めた獲物の羽や骨を装飾品にし、お守りにすることがある。
そして、それが、ステータスとなる。
「……でも、羽って」
どうなのかしら。
そう、彼女は首を傾げる。
羽。
つまり、鳥。
装飾品にしても、自慢になるものではないような気もするが。
「あ。それ、俺の」
突然の声に、彼女は横を見る。
そこに、ひとりの青年がいる。
「……あなたの?」
彼女は、彼をまじまじと見る。
西一族でありながら、まだ、この村では新しい顔の彼。
幼い頃、南一族に移住し、ここ最近、西一族の村に戻ってきたと云う。
詳しくは知らないが。
「ここに落ちてたのよ」
「そっか」
彼が頷く。
「ありがとう」
彼女は、装飾品を渡す。
受け取った彼を見る。
彼が云う。
「……これ。はじめての狩りの、思い出の品というか」
「思い出?」
「そう。俺、南にいたからさ。狩りの経験が浅くて」
「そうだったの……。ごめんなさい」
「何。ごめんなさいって」
「いえ」
彼女は、口元に手をやる。
「鳥の羽だったから」
「これが?」
ああ。と、彼は、彼女を見る。
「鳥の羽なんか自慢して。とか、思った?」
彼は笑う。
「確かに、鳥の羽なんか、たいしたことないよな」
「謝ったわよ!」
「いいって、いいって」
彼は笑い続ける。
「今度、拾ってくれたお礼をするよ」
「そんなの、いいわよ」
「確か、君は、ここのお医者さんだったかな」
「ええ」
彼女が云う。
「あなたは、おばあさまが入院してるのよね」
「そう」
彼が云う。
「じゃあ。この病院に来れば、間違えなく会えるな」
「だから、お礼なんて」
「どうせ、見舞いでまた来るんだから」
彼は歩き出す。
「お礼なんていいのよ!」
彼女は、慌てて、その背中に声をかける。
彼は、振り返らず、手を上げる。
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