TOBA-BLOG 別館

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「湶と高子」2

2014年12月23日 | T.B.1999年

祖母との面会を終えて、彼は病室を後にする。

長い廊下には夕日が差し込んでいる。

「あぁ、もうこんな時間か」

さて、帰ろうと顔を上げ、
廊下の先の人影に彼は気がつく。
白衣を着て佇む人。確か、彼女は。

「あ」

彼の声に彼女がこちらを向く。

「それ、俺の」

彼女の手元には鳥の羽から作った装飾品がある。
「……あなたの?」
彼は彼女の視線を感じながらも笑顔を返す。

「ここに落ちていたのよ」
「そっか、ありがとう」

彼はそれを受け取る。
そう。確か彼女はここの医師だ。
彼の祖母を受け持っていて、そして、

厳しい先生。

ふと、医師見習いの友人の言葉を思い出す。
厳しい人なのか、と
彼は表情には出さず、少し身構える。

「……」

彼女の視線がまだ自分に向けられていると気づき
彼は言う。

「これ、はじめての狩りの思い出の品というか」

いや、他に言うこともあっただろう、と
彼は自分の言葉に内心呆れる。
でも、それは祖母に見せようと持ってきた物だ。
はじめての狩りの思い出の品。
見つかって良かった。

「そうだったの……ごめんなさい」

「え?」
彼は改めて彼女に向き直る。
「何。ごめんなさいって」
「いえ」
彼女は躊躇いながらも言う。
「―――鳥の羽だったから」

あぁ、と彼女の言わんとしていた事が分かり
彼は思わず笑う。

「鳥の羽なんか自慢して。とか、思った?」
それはそうだよな、と彼は笑いを止められない。
「確かに、鳥の羽なんか、たいしたことないよな」

鳥を獲って喜ぶのは、狩りを始めたばかりの
子ども達ぐらいだろうか。
少なくともこの村ではそうだ。

「謝ったわよ!」

なんだ、と彼は彼女を見る。
そんな事、正直に言わずに黙っていればいいのに。

「いいっていいって
 今度拾ってくれたお礼をするよ」
「いいわよ」

「確か、君はここのお医者さんだったかな」

彼は自分の記憶を確かめる様に言う。

「えぇ」

「じゃあ。
 この病院に来れば、間違えなく会えるな」
「お礼なんていいのよ!!」

彼女の声を背に聞きながら
いいよ、と彼は手をあげる。

そうそう。
最初に祖母を訪ねてきた時に
彼女には一度会っていたのだった。

その時もっと話していれば良かったな。

そう思いながら彼は家路に就く。


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