「ほら。父さんと同じ蛇だよ」
義弟は、蛇を持ち上げる。
天院に、見せようとする。
まだ若い蛇、は、身体をうねらせる。
少し離れたところにいる天院は、その場から動かない。
「天院は、いつ、お付きをもらえるのかな?」
高位家系の者は、お付きとして、何か生き物を連れている。
生き物を従える能力が、備わっているのだ。
「ねえ。小夜も見てよ」
義弟は、小夜子の目の前に蛇を差し出す。
小夜子は後ずさりをする。
「ほら! 見てってば!」
「やめるんだ!」
天院が声を上げる。
義弟は蛇を持ち直し、天院を見る。
薄笑い。
「……この子、すごい毒を持っていてね」
義弟は、自慢げに話す。
「かまれると、すっごいしびれるらしいよ」
「そう」
「早く試してみたいなー」
「…………」
「西一族とかで、さ」
天院は、何も云わない。
義弟は、天院の表情を見る。
「あ。西一族のそっくりさんでもいいかなー」
「…………」
「例えばー、天院のお母、」
その瞬間。
天院は、義弟の胸ぐらを掴む。
離れたところにいたはずなのに、義弟の目の前に、いる。
「ひ!」
天院は、義弟を見る。
「天、院……」
天院は、もう片方の手で、義弟が持つ蛇の頭を捕らえている。
「……西一族のそっくりさん、なら」
「あ、いつのま、に……」
「髪色が白色系の、お前だろ?」
「天院……、やめて」
義弟は、顔をこわばらせる。
「ほら、……また、父さんに怒られちゃう、よ……?」
「宗主に?」
天院は、義弟を掴む手に、力を込める。
「別に」
天院が云う。
「慣れてるし」
「あ、あぁ」
義弟は、天院に掴まれたまま、あざ笑う。
「じゃあ、小夜で試す?」
「……小夜子」
天院が云う。
「行くんだ」
小夜子は震えていて、動かない。
「小夜子!」
天院は声を上げ、小夜子に行くよう、促す。
顔をこわばらせたまま、小夜子は小さくゆっくり頷く。
少しだけ、身体を動かす。
「小夜!」
今度は、義弟が云う。
「行かないでよ!」
小夜子は、背を向けて歩き出そうとする。
「ねえ、小夜!」
義弟が云う。
「今、ここからいなくなったら、罰だよ!」
「使用人を脅すな!」
小夜子は、ただ、顔だけ振り返る。
その表情は、こわばったままだ。
天院は、小夜子を見る。
「大丈夫だから。行くんだ」
「小夜ってば!」
小夜子の姿が見えなくなると、天院は、義弟を放す。
あたりには、誰もいない。
「何するんだよ、天院!」
義弟は咳き込む。
そして、蛇を持ったまま、一歩下がる。
「どうなっても、……知らないからね」
云う。
「父さんが、きっと怒ると思うよ」
義弟は、息を整える。
「そういや。今日の砂一族の制圧、失敗したんだって?」
天院は答えない。
「砂は西と同じ。東の敵だよ? なんで、ちゃんとやらないのさ」
義弟が云う。
「昔、砂一族の諜報員が東に入り込んでるから、父さんだって本気だし」
天院は、義弟から顔を背ける。
「その話、忘れたの?」
「…………」
「ほら。情報を漏らしてるやつを殺してこい、て、天院が云われたでしょ」
何も云わない天院に、義弟はいらつく。
「天院、また怒られるのかぁ」
義弟は再度、咳き込む。
「怖いよねー、父さん」
天院は、歩き出す。
「天院!」
天院は、振り返らない。
義弟が云う。
「天院は、あの子とは話すけど、ほかの人とはちっとも話さないね!」
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