TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「高子と湶」1

2014年12月19日 | T.B.1999年

「…………?」

 彼女は、病棟の廊下で立ち止まる。

 彼女の足下に、何かが落ちている。

「これは……、」
 彼女はそれを拾い上げ、見る。
「何かの羽?」

 よく見ると、
 飾りが付けられ、装飾品に仕立て上げられている。

 西一族独特の、狩りの証だ。

 西一族は、狩りを行う一族。
 仕留めた獲物の羽や骨を装飾品にし、お守りにすることがある。
 そして、それが、ステータスとなる。

「……でも、羽って」

 どうなのかしら。

 そう、彼女は首を傾げる。

 羽。
 つまり、鳥。

 装飾品にしても、自慢になるものではないような気もするが。

「あ。それ、俺の」

 突然の声に、彼女は横を見る。

 そこに、ひとりの青年がいる。

「……あなたの?」

 彼女は、彼をまじまじと見る。

 西一族でありながら、まだ、この村では新しい顔の彼。
 幼い頃、南一族に移住し、ここ最近、西一族の村に戻ってきたと云う。

 詳しくは知らないが。

「ここに落ちてたのよ」
「そっか」

 彼が頷く。

「ありがとう」

 彼女は、装飾品を渡す。
 受け取った彼を見る。

 彼が云う。
「……これ。はじめての狩りの、思い出の品というか」
「思い出?」
「そう。俺、南にいたからさ。狩りの経験が浅くて」

「そうだったの……。ごめんなさい」

「何。ごめんなさいって」
「いえ」
 彼女は、口元に手をやる。
「鳥の羽だったから」
「これが?」

 ああ。と、彼は、彼女を見る。

「鳥の羽なんか自慢して。とか、思った?」

 彼は笑う。

「確かに、鳥の羽なんか、たいしたことないよな」
「謝ったわよ!」
「いいって、いいって」

 彼は笑い続ける。

「今度、拾ってくれたお礼をするよ」
「そんなの、いいわよ」
「確か、君は、ここのお医者さんだったかな」
「ええ」
 彼女が云う。
「あなたは、おばあさまが入院してるのよね」
「そう」

 彼が云う。

「じゃあ。この病院に来れば、間違えなく会えるな」
「だから、お礼なんて」
「どうせ、見舞いでまた来るんだから」

 彼は歩き出す。

「お礼なんていいのよ!」

 彼女は、慌てて、その背中に声をかける。

 彼は、振り返らず、手を上げる。



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